電脳経済学v3> f用語集> ki2 共同体 (community)  2000年10月07日作成:2000年12月09日;2001年06月11日一部修正

<1>家族関係が拡張された社会関係
<2>血縁的・地縁的なつながりに基づく共同生活の様式。
<3>物質的富や精神的価値を共有する集団。
<4>一定範囲にわたる有機的な社会関係の総体

[説明]
(1)上記の定義は感覚的に理解可能であり特に説明を要しない。経済学の視点に立つとき、共同体概念は現代資本主義社会の反立として提示される点にまず注目したい。19世紀ドイツの社会哲学者テンニエス(テニエスとも呼ばれる。)は、社会生活の根本問題を分析してその結果を『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』として著した。ゲマインシャフトには「共同社会」の訳語が、ゲゼルシャフトには「利益社会」があてられている。共同社会は上記定義に示すように感情を共有する社会集団を指し、一方の利益社会は利益追求のために組織化された社会集団を示す。前者は「内なる原理」を基本とする性善説社会、後者は「外なる原理」を基本とする性悪説社会と考えることができる。
上述の文脈は、現代経済社会に対する社会主義的側面と資本主義的側面の併存要請と理解できよう。共同社会と利益社会の身近な事例として家庭と職場の関係を挙げることができる。両者間の調和的関係は時代と場所を問わず自明であろう。昨今の日本社会に見られる社会病理的な各種現象、例えば凶悪化する少年犯罪や悲惨な家庭崩壊は、親が利益社会に傾斜して(金・地位・名誉・男女関係などの虜になって)共同社会的な要因(金銭のタームでは計れない子供に注ぐべき愛情や家族間の惻隠の情など)を蔑ろにした結果にほかならない。

(2)共同体意識の根底には「土地の共有性」がある。土地は、経済学において労働・資本と並ぶ生産の3要素を構成し、さらに資源や自然をも意味する。こうして土地は生産要素を超えて生命や万物の根源を意味する。共同体の語幹をなすcommunはさらにキリスト教団、共産主義、ファッシズム、ナショナリズム、交通通信などの概念と通底関係にある。これらに共通する意識は郷愁回帰であり本来性の回復志向でもある。高度に発展した資本主義社会のはらむ脆弱性の所在が、本来的な共同体のあり方に照らして解明される必要があろう。

[参考文献]
1.『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』 テンニエス 杉野原寿一訳 岩波文庫