電脳経済学v3> g自分学> まえがき

〈現代を生きる〉
私たちはいま激動と混迷の時代を生きています。二十一世紀を前にして、人類の文明は試練の時を迎えています。私たちは濃霧のさなかにあって、世紀末という曲りくねった険しい山道を切り抜け、峠を越えることによって、安全に二十一世紀を迎えねばなりません。
現代では各分野における人間活動は、密接な相互関連のもとに、地球的な広がりの中で同時併行的に営まれています。安全保障、環境、資源、人口、貿易、金融などをめぐる諸問題は、あまりにも錯綜して、切れ目をいれにくい問題複合体をなしています。この相互依存、相互保障の関係が地球社会に新たな脆弱性と手づまり感を与えています。つまり、先進諸国を中心として、連鎖的な破滅に対する危機意識が広がりつつあるのです。

〈隗より始めよ〉
私たちはこの時代環境に対して、どのように取り組めばよいのでしようか。情況が困難であればあるほど「冷静沈着」な態度が求められます。この時こそ、慌てず騒がずに“人間の本質に立ち帰る”べきではないでしようか。
現代社会をめぐるあらゆる問題は“倫理感の欠如”に原因があります。私たちは何よりも健全な人間観に目覚めねばなりません。正しい人生観や自己実現について、ここであらゆる角度からできるだけ詳しく述べてみました。

〈問題意識の背景〉
このような問題意識は、筆者の過去二十年間にわたる国際開発コンサルタンツとしての体験から生れたものです。筆者はこれまで、欧州、中近東、アジア地域を中心に四十ヵ国に及ぶ国々で、その職業活動を通して、文字通り王様から庶民まで、各界各層の人たちと意欲的な対話を進めてきました。本書はその人たちとの共同体験から抽出、集約したものです。
国籍、立場、言語、宗教、文化といった背景の同異を問わず、それらを丹念に評価する態度から相互理解の道が開けます。相手の身になってその人がかかえている問題を解決する、これがコンサルタンツの使命であり、そのためには己を虚しくして、相手を深く理解する態度が求められます。
本書は新しく職場に迎えられた青年層を対象に、社会常識の再確認を試みる形でまとめたものです。すでに実社会で活躍中の方々や家庭の主婦、学生諸君にも参考になると確信します。
第1章では社会人としての職業意識のあり方を、自己実現や天命思想との関連からふれてみました。第2章は家庭を生活の原点として位置づけ、人間そのものや幸福の意味を問いなおしています。第3章は人生上の問題とその解決方法について、仏教の考え方を紹介しながら究明してみました。
本書では数多くの先哲の言葉を引用しました。その出典は巻末に記しておきました。著書の諸先生方に深く謝意を表します。
本書の出版にあたり、不慣れな筆者をよく督励、鞭撻いただいた出版企画(株)アド・ブレーン・ルーム代表樋原茂則氏ならびに未来出版兵頭憲文氏に心から感謝いたします。内容について意をつくせない表現もあるかと存じますが、読者各位のご賢察をもって言葉のいたらないところを補っていただき、本書がいくらかでもお役にたてば、筆者としてこれにすぎる喜びはありません。

昭和六十年(1985年)春

著 者