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図b14-1 熱力学第1法則 | 図b14-2 状態変化 | 図b14-3 熱力学第1法則 |
図b14-4 投入産出関係 |
図b14-5 ストック |
b14-1 熱力学第1法則の表現方法
熱力学第1法則を文章で表現すれば下記のようになります。いづれも熱力学に造詣の深い日本を代表する物理学者による定義であります。出所は参考文献に示す通りです。言いまわしはそれぞれ幾らか異なりますが、これを図示すれば図b14-1および図b14-2となり関係式で表せば式(1.1)となります。僭越ながら次に補足的な説明を加えます。
熱力学第1法則 (1) 戸田による表現:
(2) 砂川による表現:
(3) 小出による表現:
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U2−U1=Q+W ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (1.1)
(1) 戸田による表現:
「定められたはじめの状態から、定められた終わりの状態へいろいろの方法で移すとき」とは図b14-2において状態1から状態2への移行方法を問わず内部エネルギーの変化量(U2−U1)のみに着目するときを意味します。「物体系に与えた力学的仕事と熱量の和は常に一定である。」はそのままW+Q=一定を指します。両者が等価関係にあるので式(1.1)となります。次に要点を整理します。@Uは状態量であるがWやQは経路により定まる量である。A系外から系への入力はプラスで系から系外への出力はマイナスで表す。B状態0は基準面を意味し任意にとり得る。
(2) 砂川による表現:
「Uの増加量」とは内部エネルギーの変化量(U2−U1)を指します。したがって「Uの増加量は外部から体系に移った熱量Qと、その体系に外部からなされた力学的仕事の量Wの和に等しい。」は(U2−U1)=Q+W
と表現でき、これは式(1.1)に相当します。
(2) 小出による表現:
「系が状態1から状態2に変化したとき」「系のもつ内部エネルギーは増加していなければならない。」とは内部エネルギーの変化量(U2−U1)を指します。それがW+Qに等しいとは(U2−U1)=W+Q と表現でき、これも式(1.1)に相当します。
b14-2 熱力学第1法則の適用可能性
熱力学第1法則のもつ意味深長性に鑑みて前節では幾つかの定義をあげました。次にその理由を確認したうえで先に進みます。
(1)保存則の普遍妥当性を含意している。
(2)数学モデルとして応用可能性が大きい。
(3)社会モデルとして比喩展開性に優れる。
(4)ストックとフローを結合している。
(5)資本と所得の相互変換が表現可能となる。
(6)環境条件の内部化を表現している。
b14-3 熱力学第1法則の普遍性
図b14-3と図b14-4の対比から明らかなように熱力学第1法則は投入産出関係の熱力学的な表現といえます。一方、投入産出関係はb10およびb12で述べたようにエネルギー保存則と対応関係にあります。つまりこれらは保存則の異なる表現となります。システムにあるとおり境界によって内外に二分された内部を系、外部を環境と呼びます。次に環境から系に対する投入・産出(Inputs、Outputs)
を考えると系の前後における状態変化は式(1.2) のように表すことができます。なお系についてはシステム、物体、物体系、体系、対象、対象系、系内、内部などとも呼ばれ、環境についても系外、外界、外部さらには条件、前提などさまざまな表現がされますので注意を要します。本HPでは原則として内部と外部あるいは系と環境を用います。
新しい系の値=前の系の値+(投入量−産出量) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (1.2)
式(1.2)は式(1.3)に示す預金残高の計算法に対応させると容易に理解できます。預金残高の計算法は保存則の身近な具体例であります。預金残高の計算法における用語を式(1.1)の変数に置き換えれば熱力学第1法則が告げる意趣を身近に感じることができます。預金残高が瞬間値であるのに対して払込み額/引出し額が一定期間の合計値である点はUとQ/Wがそれぞれ状態量と経路による値とした性格に一致しています。これを平たくいえば”預金残高は金額だけが問題で、入金や出金の方法が送金か現金かは問わない”ことを指します。なお図b14-5はタンクを系にとり水位変化(U2-U1)を内部エネルギー変化量に対応させた事例です。(U2-U1)と(Q-W)がそれぞれストックとフローに対応しています。
当期末の預金残高=前期末の預金残高+(当期の払込み額−当期の引出し額) ‥ (1.3)
熱力学第1法則は、これをエネルギーに対して適用したもので図b14-1並びに式(1.1)に示した通りです。ここでU2−U1は内部エネルギーの変化量を、Qは熱量を、Wは仕事を表わします。なお−Wは外部になす仕事つまり系から出て行く量ですからマイナスとなります。それを図b14-3に示します。内部エネルギーとは系が内部に蓄えているエネルギー意味し、系の外部にあるQやWと区別します。内部エネルギーは直接測定できないので外部からのエネルギーの出入りに基づき変化量として捉えます。式(1.1)におけるWを-Wとしたのが式(1.4)です。電脳経済学では投入産出関係との対応から原則として式(1.4)を用います。
U2−U1=Q−W ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (1.4)
熱力学は基本的に熱量を仕事に変換する熱機関(エンジン)を系として想定していますので右辺はQとWをとります。したがって式(1.4)は右辺の外部因子が左辺(系)の内部状態に与える変化を表現しています。U1の値が既知であれば右辺に移項して未知の値U2を求めます。つまり式(1.5)となり、この表現形式は式(1.2)あるいは式(1.3)として既に示した通りです。
U2=U1+(Q−W) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (1.5)
[参考文献]
(1) 物理入門コース7 『熱・統計力学』 戸田 盛和 岩波書店 p16
(2) 物理の考え方3 『熱・統計力学の考え方』 砂川 重信 岩波書店 p19
(3) 基礎物理学2 『熱 学』 小出 昭一郎 東京大学出版会 p17