図b12-1
振り子モデルによる力学的エネルギー保存則 |
図b12-2 ゲーム |
b12-2 力学的エネルギー保存則
力学的エネルギー保存則は図b12-1に示す振り子モデルによって余すところなく説明されています。力学的エネルギー保存則とは、右端の力学的エネルギーEのボックスサイズが一定であることを意味します。つまり振り子の位相にかかわらずボックス内部は青か赤で満たされていて背景の白地は現れません。一方、エネルギー変換とは振り子の位相に対応してUとKが相補的に増減関係をなす、それはボックス中の青と赤の割合が変化する現象に対応します。
さて、ここで図b12-1に隠されているいくつかの前提条件に注意を払う必要があります。この振り子が永久に動き続けないのは経験的に自明であります。振り子の運動は次第に減衰して最後にB点で静止します。これは摩擦や抵抗の存在によるもので、この現象は力学的エネルギー保存則では表現できません。摩擦、抵抗、音などは最後には熱になって対象系から逃げて行きます。熱力学第1法則が要請される根拠はここにあります。熱力学第1法則もエネルギー保存則の一種ですが、その名の通り熱現象と力学現象を統合的に取り扱うことができるのでより普遍性があります。
b12-3 質量保存の法則
エネルギー保存則との関係から質量保存の法則についても触れないと片手落ちになります。別記のように「則」は「の法則」を簡略化した表現法で英語では
Law of となり同じですが、ここでは「の法則」とします。質量保存の法則は「質量不変の法則」あるいは「物質不滅の法則」とも呼ばれます。エネルギー保存則が物理学の用語法であるのに対して質量保存の法則は化学の用語法といえます。質量保存の法則は1774年にラヴォアジェによって化学反応の前後において反応物質の全重量と生成物質の全重量が等しいことから発見されました。
質量保存の法則はこれをさらに一般化して物質はいろいろに変化するがそれは物質の構成要素である原子の組合わせが変るだけで物質の質量自体は不変とするものです。しかし現在では相対性理論によって質量とエネルギーが等価であることが示されて厳密には質量保存の法則は成立しないとされています。
b12-4 保存則の普遍化を巡って
前記の力学的エネルギー保存則は位置エネルギーと運動エネルギーを対象とするもので狭義のエネルギー保存則とも呼ばれます。これはエネルギー保存則の最も簡単な例でありかつ基礎的な原型といえます。力学的エネルギーの対象はこの外に弾性、圧縮、変形、捩れなどもあります。エネルギーの種類は力学に加えて熱(内部)、電気(静電、電磁)、光(電磁波)、放射線(粒子線)、化学(混合、反応)、原子核(核分裂、核融合)、生物などもあり、これらを対象として広義のエネルギー保存則が成立し相互にエネルギー変換が可能であります。
システムのところで述べた通りエネルギー保存則を適用するに際しての要諦は対象系の境界条件にあります。エネルギー保存則は閉じた系(閉鎖系)の内部で成立する法則であり、開放系に適用する場合は境界を通しての入力・出力を考慮に入れる必要があります。保存則は世界成立の基本法則でありそれ故に自然現象のみならず社会現象を含む現象世界全般に適用可能であります。というよりすでに日常生活に溶け込んでいますので、それの再発見・再解釈が求められています。
その身近な例としてマージャンの点棒を図b12-2に挙げました。各自3万点持ちで始めると場全体に流通する点棒は常に一定の12万点となります。これはゼロサムゲームと呼ばれ各自の増減値の総和が常にゼロであることを意味します。ゲームはルールを定めて取り合いを競うわけですが経済や政治もこの文脈から保存則の適用例と見ることができます。図b12-2において青は開始時、赤は終了時を表しともに変動値であります。一方、黒は固定値を示します。これはほかならぬデータベースの考え方そのものであります。