1.西洋哲学の基礎部門
(1)そのままの意味は:
存在論(ontology)はonta-logosに分けられる。onは存在を意味し、taはその複数形であり、logosはロゴス(論理)であるから、ontologyは「存在の論理」
を表す。
(2)形而上学とは何か:
存在論は形而上学(metaphysics)の対象領域つまり万物あるいは宇宙をめぐる論考を指す。形而上学はアリストテレスの第一哲学で諸学の基礎をなすとされる。ここに第一哲学とは、存在者をして存在者たらしめる第一原因を指す。metaは背後を、physicsは物理学を意味する。physicsは自然哲学あるいは自然学ともされるが、ここでは物質と運動の科学として物理学とした。metaは接頭語で、元の、背後の、前提となる、後ろにあるを意味する。メタ理論とかメタデータという用い方がされる。これは基礎理論やデータのデータと同義である。
つまり、形而上学とは自然現象の背後にある根本原因を考察する学問といえる。
(3)そもそも「存在」とは何か:
その前に
「存在」の意味を確定しないと論議が空転する。「存在」の思索はヨーロッパ「哲学」における究極の主題とされ
、その意味で「存在」と「哲学」は相照らし合う関係にある。平たくいえば存在とは「あるもの」「あること」である。ここで「ないもの」「ないこと」は暗黙の前提になっている。有と無は相互排他的に対応し、これは二元論と呼ばれる。一方、実体と属性の関係から捉える接近方法もある。y=f(x)
とするとyが実体つまり存在を、xが属性をあらわす。ここでは存在は属性記述の過程として位置づけられる。
(4)論理を巡る蛇足:
西欧人と非西欧人では論理展開の根本原理が異なるように思われるので僭越ながら説明を補足する。前項(3)で「有と無は相互排他的に対応する」とした。これは古典論理と呼ばれ「@曖昧さがないこと」と「A無は有が前提になること」が暗黙の条件になる。@は黒白グラデーションでは成立しないことをAは無が単独には存在しないことを告げている。両者を併せて「否定」の意味を考え直す必要がある。有を定義しない限り原理的にその否定は成立しない。いきなり「日本人は無宗教だ!」といっても相手は困惑するだけである。このことは1と0からなる2進法に顕著に示されている。この点に関しては古典論理と直観(主義)論理における否定の捉え方に理解が及べば解消する。短くいえば「推論」や「曖昧さ」を巡る説明態度となる。
2.電脳経済学の立場は:
これらを踏まえて電脳経済学では次の立場によっている。つまり、目的論と方法論に対応させて価値と存在を規定する。それぞれが対概念をなしている。これは価値命題と存在命題とも呼ばれる。両者を時間と空間に対応させてタテ・ヨコ十文字の形で捉える。これから次のことがいえる。@価値と存在は関連しているが相互に
相手の成分を含まない。A価値は意識の産物であり、実体的に存在しない。B逆にいえば存在に価値を認めるのは意識の働きである。C主体は、価値と存在の交点に意識として
位置する。Dつまり価値と存在の
交叉において意識が発生する。E前記3者が一致すれば3者ともに意識から消滅する。つまり不一致状態のもとでの3者の出現は錯覚現象である。哲学ではこれを矛盾といい、
仏教では仮相という。
このように、存在と価値を対応関係から捉える点が、これまでの存在論との際立った違いである。例えば、ある社会に流通する「貨幣」は物理的にたんなる紙切れであるが、その社会を構成する人たち
がその「価値を共有」
すれば貨幣として機能する。つまり貨幣は社会の相互信頼関係を前提に流通している。貨幣が相互主観的な意識作用の産物である点は手形を思い浮かべれば納得できる。この意味で貨幣は社会構成員の価値が明示化された姿といえる。
3.知識工学でいうオントロジーとは:
知識工学で用いられるオントロジーは、エキスパートシステムを構築するとき知識を表現するための語彙あるいは基礎概念の体系を意味する。従来の人工知能(AI)では知識表現を考えるときにもっぱら枠組みの問題に注目
したが、ある特定領域の知識全体をどのような語彙を用いて表現するかという知識内容の問題は枠組み以上に重要である。
知識工学の研究において知識内容の重要性が認識されるにつれてオントロジーへの関心が高まってきた。大規模な知識ベースを作って多くの人間でそれを共有しようとする際にも、知識ベースのオントロジーをどう記述するかは大きな研究課題となる。一般に専門家は人によって日ごろ用いる語彙が異なるからである。
(『imidas2002』 AI&ロボティクス 松原 仁 「オントロジー」 p847 集英社から引用
して一部修正。)
[関連用語]エキスパートシステム;人工知能(AI);分散人工知能(DAI);アルゴリズム;オブジェクト指向;人工生命(AL):推論機構;知識ベース;データベース;フレーム理論;ヒューリスティック;認知科学;ゲーデルの不完全性定理;人間;エージェント;意識;ロボット;問題解決:
4.ここで何をいいたいのか:
アリストテレス以来の存在論(ontology)が、知能を備えたロボットに代表される現代のハイテクノロジー設計に際して再考を迫られている。現代科学が、神の存在証明という神学論争と西洋哲学の知見蓄積に対して一定の結論を出せるか。この宗教と科学をめぐる根本問題を避けて人類文明は先に進めないように思われる。ここで哲学は両者の媒体の位置づけとなる。