電脳経済学v3> f用語集> ae3 エルゴート性(ergodic property) (当初作成:2000年09月14日)(一部追加:2003年04月15日)(一部追加:2009年11月06日)

<1>統計力学の用語で、時間と空間の相互等価関係に関する物理数学上の保障。
<2>時間平均は集団平均(位相平均ともいう。)に等しいとする統計力学上の仮説。
<3> 熱力学ではアヴォガドロ数(NA=6.022x1023/mol)程度の分子数を対象とするので系の時間平均(各分子運動の時間的経過)をとるのは困難である。その代わり集団平均(特定の時間における各分子の空間的位置)をとって力学的量の観測値を計算する。このことが正しいとする仮定。

[説明]
(1)最初に次の点をお断りします。自身の理解も十分でなく、かつ物理学者や数学者の間でいまなお議論の多いエルゴート性なる物理用語を何故あえて経済用語集に取り入れたのか。この理由は次の直観による。エルゴート性概念は時間と空間の相互変換を巡る普遍的説明可能性を秘める。この考え方はC45 マルクス理論の基本構造並びにコメント3 C3−1/R3−1に述べている。その基本的姿勢はポストモダンにおける理論的支柱の模索にある。
(2)エルゴート性導入の時代背景は次の通りである。熱力学の理論は熱現象の本質をみごとに説明できるが、物質の内実については何も述べていない。つまり、熱現象を巡る巨視的な体系は微視的(分子運動論的ないし力学的)な既存法則と結びつかない。熱力学成立の過程でこのような批判が原子論者から寄せられた。力学的とは可逆性を意味するので、この批判は熱現象の不可逆性を根底からゆるがす。
(3)これに対してオーストリアの物理学者ボルツマンはエルゴート仮説を導入してエントロピーを微視的状態の数と関係付けてボルツマン原理を確立した。つまり、ボルツマンは気体分子の速度分布に関する時間的変化を定式化した。こうして熱現象の不可逆性(これはまた熱力学第2法則並びにエントロピー増大の法則を意味する。)を分子論的に説明した。ボルツマンによれば、これら現象は単なる力学法則ではなく確率法則として取り扱うべきで、これを換言すれば任意に選んだ巨視的状態の中にはエントロピー増大に向う微視的状態の数が圧倒的に多い。このために体系は時間の経過とともに確率の大きい状態へと移行する。ボルツマンの原理によればエントロピー(S)は次の関係式で与えられる。kはボルツマン定数。Wは微視的状態の数。
   S=k logW
この式はまたアメリカの通信工学者クロード・シャノンによって導入された情報エントロピーの定義式とも一致する。しかし、両者を対応させる考えには異論も多い。

(4)上記<1><2>に述べた「時間平均は位相平均に等しい」とする言明の例を示す。サイコロを振ると言う確率過程的な現象において、3個のサイコロを1回振って得られる結果と1個のサイコロを3回振って得られる結果とは等しいと仮定する。両者を同じ現象とみなすことが出来れば時間と空間の相互変換が可能となり、即時性と同時性の説明に根拠を与える。これは通時態(隔時性:diachrony)共時態(同時性:synchrony)とも呼ばれる。
明日の関東地方の天気が今日の九州地方の天気から類推できるのもその例である。コメント3に示すミンコフスキー時空はこれを宇宙レベルに敷衍した考え方である。