〈1〉機能:@一般的交換手段(計算手段、支払手段、流通手段)、A価値尺度、B価値貯蔵手段
〈2〉要件:@識別性、A可分性、B同質性、C可搬性、D耐久性
〈3〉社会制度:社会構成員相互間における一般的請求権の制度化された表示形態
〈4〉形成過程:商品価値の一般的等価物としての表現形態 (マルクス)
〈5〉社会関係:社会秩序を形成する媒介形式 (ジンメル)
〈6〉存立構造:無限の循環を前提とする価値形態 (岩井)
〈7〉本質:商品情報の担体 (電脳経済学)
[説明]
(1)上記〈1〉〜〈3〉は貨幣に対する一般的な説明である。社会成立の前提として貨幣制度を与件とした貨幣の抽象的定義である。実用的定義を含め貨幣のさらなる説明については参考文献1に詳しい。上記〈4〉はマルクスによる貨幣論を圧縮して表現している。マルクスは商品群の交換場面から貨幣形成過程の必然性を独自の視点から洞察して商品・貨幣世界の構造解明を試みた。
マルクスによる推論の粗筋を次に示す。異質の有用性をもつ諸「商品」が必要とされる→商品は同質的な「価値」形態の内在ゆえに交換に供される→価値は「価格」現象として社会的に可視化される→他の商品との交換を求める「貨幣」が社会的に要請される→交換可能性が保障された貨幣は価値体系の差異充填を目的として「資本」に転化する→資本は自己増殖運動を限りなく反復して資本主義「社会の矛盾」が表面化する。つまり、無数の商品群の交換の場面で一般的等価形式の位置に立てる商品として貨幣を措定し、その貨幣が資本主義社会における不可視なる「社会関係」自体を表している。
(2)上記〈5〉はジンメルによる定義である。ジンメルはマルクスの後に貨幣の哲学について考察を加えて貨幣の媒介性と両義性を強調した。両義性とは、貨幣が人間を一方で自然から分離させ他方で自然に回帰させる、ことを指している。媒介性も同じ論旨で、貨幣が人間と自然を再結合させるとの指摘である。大筋でキリスト教の考え方に則している。
(3)上記〈6〉は岩井による貨幣論の要旨である。岩井はマルクスを踏まえて現代資本主義社会における貨幣の存立構造を不均衡動学の立場から解き明かし、ハイパーインフレーションを例に挙げて貨幣社会が抱える脆弱性について指摘している。貨幣の存立構造とは、貨幣が社会構成員の貨幣に対する信用の無限の連鎖のうえに成立している、とする主張である。この主張は不渡り手形が国家規模で発生した場合を想定すれば容易に理解できる。世界経済の連鎖的破綻の可能性に関しては、その形態や規模は別としても、多言を要しない。
(4)上記〈7〉による定義は電脳経済学の立場である。「貨幣の謎」を巡って哲学、文学、文化人類学、記号論などの分野でも、おびただしい議論がこれまで積み重ねられてきた。これらの是非はさておいて、前記〈1〉@にあるように貨幣は第一義的に「交換」の文脈から捉える必要がある。「貨幣は商品と交換される」あるいは「商品は貨幣と交換される」これが出発点となる。何より先ず「交換」が主語であり、「貨幣」と「商品」は述語である。換言すれば、交換対象である「貨幣と商品」は両者の相互関係から現れるとする。次に交換の主体は「商品所有者と貨幣所有者」である。さらに交換行為の本質は所有者の「意識」変化にある。「情報」移転と呼んでもよい。この詳細は交換モデルに述べる通りである。
それでは物質的な側面はどうなるだろうか。物質と情報は硬貨の表裏の関係にある。物質と情報が相まってこの世界を構成している。エネルギーは?と問われれば、物質も情報もつねに運動状態にある以上、エネルギーは物質と情報の前提をなすと答える。ちなみにエネルギーとエントロピーもまた硬貨の表裏の関係にある。順序づけを好む人のために4者のうちでエネルギーが第1順位を占める点並びに時間がエネルギー変化(エントロピーと同義)に伴って現れる点も付け加えよう。なお物理要素については物理要素とは何か並びに物理要素の働きに示す通りである。
[参考文献]
1.『経済学大辞典』 T東洋経済新報社 昭和63年2月15日発行 pp788-798
2.『貨幣論』 岩井克人 筑摩書房 1993年3月25日発行