電脳経済学v3> d経済系2> d20 交換モデル
(全面改訂:2006年11月01日) (一部修正:2006年11月03日)

交換過程

交換モデル


 D:交換(取引き)対象領域
 S:売り手
 B:買い手
 T:時間軸(特定の時間)
 L:空間軸(特定の空間)
 E:交換成立時の座標原点
 C:商品(実現態)
 M:貨幣(実現態)
 @(_) :可能態の写像情報
      (交換前のイメージ)
 A( ̄):過去態の写像情報
      (交換後のイメージ)

  図d20-1 交換過程(図c30商品詳細図)
図d20-2 交換モデル(C-M⇔M-C)
記号説明

d20-1 交換による財の獲得
財の獲得方法には強奪・贈与・交換があります。強奪/贈与は垂直的な社会関係を前提とする強権的/恩恵的な財の分配方法であります。それに対して交換は水平的な社会関係のもとで当事者間における選択と納得を前提に成立します。このように財の獲得方法は経済主体相互間の社会的関係に支配される点において生態的地位関係と類似しています。
交換に関してアダム・スミスは“…人間の本性に由来する交換性向は理性や言語という諸能力の必然的な帰結なのか、それはわれわれの当面の研究課題には属さない。それは一切の人間に共通でしかも他のどのような動物類にも見出すことができない…”と述べています。[参考文献(1)]
上記を踏まえて交換成立の条件は次のようになります。
(1) 交換成立には当事者間の水平的信頼関係が前提となる。
(2) 交換には相手に財を要求し期待する事前の選択的相互関係がある。
(3) 財の相互移転過程において情報交換が行われる。
(4) 情報交換は商品仕様と商品価格を巡る事前評価を目的とする。
(5) 交換行為に参加しその交換結果に対する納得意識により信用が醸成される。

d20-2 代謝モデルの構成
代謝モデルは生産・消費・分解の各系からなる変換系とこの間を結ぶ資源・商品・労働・廃物の各市場からなる交換系から構成されます。ここで変換系は変換モデルにより、交換系は交換モデルにより表現可能とします。変換モデルは交換モデルの変形操作により導出できますから結論的に代謝モデルは交換モデルのみで表現できます。したがって経済過程の全局面は交換モデルのみで説明可能となります。さらに次節に示す理由により交換の内実は情報交換ないし意識作用を意味します。
なお図d20-1は図c30に示す商品市場の詳細図を表し、同図の時間軸を右向き水平にとれば図d20-2となります。両図ともに時間・空間・主体に加えて対象として商品・貨幣を例示しています。図c70の背景色は主体の支配領域を影響圏として示していますが、この境界域で交換が行われこれはマルクスのいう共同体の果てるところに対応します。

d20-3 交換過程並びに交換モデルの説明
(1) 交換Eとは売り手Sと買い手Bが商品Cと貨幣Mをそれぞれ取り替える行為をいう。(図d20-1/図d20-2参照)
(2) 交換過程Dとは交換Eを巡る次の一連の手順を指す。(図d20-1/図d20-2参照)
(3) 交換モデルとは交換過程Dについての解釈を意味する。
図d20-1/図d20-2参照)

A. 交換成立前の状態:@あるいはカッコ内アンダーバーで表す。

1.売り手Sは、所有する商品Cを貨幣Mと交換したいと欲している。この時点において売り手Sは実現態としての商品Cに、可能態としての貨幣Mのイメージを写し出している。これを@C()で示す。

2.買い手Bは、所有する貨幣Mを商品Cと交換したいと欲している。この時点において買い手Bは実現態としての貨幣Mに、可能態としての商品Cのイメージを写し出している。これを@M()で表わす。

B.交換成立後の状態:Aあるいはカッコ内アッパーバーで表す。

1.売り手Sは、商品Cとの交換を通して、貨幣Mの所有者になる。この時点において、売り手Sは実現態としての貨幣Mに、過去態としての商品Cのイメージを写し出している。これをAM()で示す。

2.買い手Bは、貨幣Mとの交換を通して、商品Cの所有者になる。この時点において、買い手Bは実現態としの商品Cに、過去態としての貨幣Mのイメージを写し出している。これをAC()で表わす。

C.上記手順の記号表現:

S: @C()→AM(
B: @M()→AC(

D.共役的写像関係:
商品Cと貨幣MはT軸とL軸を対称軸として相互に対象を写し出す関係にあり、これを共役的写像関係と呼ぶ。交換過程の内実はこの共役的写像関係に見出すことができる。
前記C.に示す記号の意味は次のようになる。ここに担体(Carrier)とは運び手とも呼ばれ物質あるいはエネルギーの形態をとる。
1.C(M): 商品Cは価格情報(M)の担体として機能している。
2.M(C): 貨幣Mは商品情報(C)の担体として機能している。

E.座標原点Eを巡る取引きの移行過程には次の意味がある。

可能態(確率状態:アンダーバーで表現)から過去態(確定状態:アッパーバーで表現)への移行は、商品Cの価値が相互の取引きにより評価され貨幣Mの尺度で表現される商品情報確定化の過程である。

F.上記のことは、資源、労働、廃物などの任意の商品に対しても成立する。

[参考文献]
(1)『諸国民の富』(1) アダム・スミス著 大内 兵衛・松川 七郎訳 岩波文庫 p116