電脳経済学v3> f用語集> ji1自愛 (self-love) (当初作成日:2004年12月24日)
<1>自らその身を大切にすること。「自重自愛を祈る」(日常用語)
<2>人間が自然状態において持つ自己保存の傾向。(哲学用語)
[説明]
(1)自愛について考えてみます。<1>の「自重自愛」は目上の人からの助言や諭しの言葉としてしばしば引用されましたが最近は死語同然のようです。自愛とは愛に由来する用語で、さらに愛とは他愛を意味しますから他愛を施す自分の存在がその前提になります。つまり愛とは自他愛の省略表現となります。これは上記<2>に相当します。電脳経済学では原則として自他の間に境界を設けません。自他峻別は二元論や弁証法の立場とみなします。
(3)
この論理の成立を巡る哲学論争においてホッブスやスピノザは「自己保存の努力が人間の行為や徳の基礎だ」とする立場をとります。これは電脳経済学の論旨と一致しています。一方、ハチソンやヒュームは「慈悲心、同情、道徳的感情や良心は自愛に還元しがたい行為の源泉だ」と主張します。自己犠牲や殉死は自己保存では説明できないと言うものです。
(4)電脳経済学の主張は図ji3愛と信の構図に示す通りです。これは次の説明が前提となっています。
先ず他愛とか他信という言葉はあくまで比喩的な造語ですから図に示す対応関係からご推測願います。愛は未来を信は過去を対象とします。浮子状の切り口や三角錐は図e22-2や図ct03-2などで用いた電脳経済学に固有の思考装置であります。垂直方向と水平方向つまり目的論と方法論を目的連鎖として統合的に捉える思考法が固有たる所以であります。
(5)愛と信がともに社会成立の基本条件であることは図ji3から明らかであります。アダム・スミスのいう「利己的な振舞い」や「見えない手」もまた図ji3から説明出来ると考えます。図ji3において他信つまり親への信頼が出発点となります。親が子に愛情を注ぐから子は社会の代表者である親を信頼します。その子は自信を持つとともに長ずるにしたがって愛をもって他者に接することが出来ます。近年このような社会の連鎖が途切れてきたように感じられます。なおここで言う自愛はナルシシズムとは区別しています。
図ji3 愛と信の構図 |
[参考資料]
(1) 『哲学事典』平凡社 p553