<1>love:@人または物に対する強い慈しみの感情(愛情)、A異性に対する愛(恋愛)、B肉親・友人などへの愛(情愛)、C好意、D性愛、E愛好、F神の愛。
<2> affection:@loveよりも穏やかで永続的な愛(愛情)、A情愛、B愛慕の情。
<3> Eros:性愛。@ギリシア神話における愛の神でローマ神話のCupidに相当。プラトンによると、愛は善きものを永久に所有したいとする人間性向の現われであり生産・生殖を目指す。→プラトニック・ラブ、Aeros:
情愛、性的欲求、性衝動。
<4> charity:慈善、慈善行為、博愛、思いやり。
<5> benevolence:@善意、慈悲心⇔malevolence(悪意、敵意)、A善行(利益よりも慈善を目的とした行為)。
<6> fraternity:友愛、博愛、兄弟愛、親交。自由、平等とならぶフランス革命の基本精神で普遍的な愛を指す。agapeが神による下降的な愛であるのに対して人間同士の水平的な愛を意味する。
<7> libido:フロイトによる精神分析の用語ですべての人間行動にとって隠された動機をなす本能に由来する性的エネルギーを指す。これが自我に向けられると自愛(ナルシシズム)あるいは固着とされ、時間的に逆行すれば退行、他者に向けられると
その程度によって愛情から攻撃までさまざまな形をとる。性欲を情動の根本原因とする考え方。
<8> agape:神愛。(性愛に対する)神の愛。罪深い人間に対する神の愛。無条件的絶対愛。キリスト教による下降的な愛。
<9> phil-(母音またはhの前で); philo- 愛する、親和的な、…びいき、の意で、例えばphilobiblist; philosophy:
-philia …の病的愛好、…の傾向(反対語は-phobia 病的恐怖、…嫌い): -philiac …の病的愛好者の、…の傾向のある者。前記の意味を表す連結形。
<10> 中国:@墨子の兼愛説が有名である。兼愛とは自己と他者を区別せずに平等に愛することを指す。戦乱の世に現われた墨子は群雄が相争うさまは人間の利己心によるとして兼愛こそが天意に沿うものだと主張した。儒家が家庭内の愛を説くのに対して墨家は博愛主義・弱者救済を唱えた。A孟子は親の子を思う心を〈惻隠の情〉とし、これをあまねく及ぼすように説いた。惻隠の情とは相手の心情を深く理解する心的態度を意味し、孟子はこれを社会結合の大本に据えた。
<11> 仏教:仏教では偏愛あるいは貪愛として愛を退ける。つまり愛は〈執着〉あるいは〈煩悩〉と見る。日常用語としての愛は、仏教用語では慈悲と呼ぶ。慈悲は対価を求めない慈しみの心を指し、慈は与楽を悲は抜苦を意味する。
仏教では知恵と慈悲を対概念として捉える。
<12> 日本:ものの哀れに由来する〈いとおしさ〉を指し山川草木、花鳥風月にも向けられる。
<13> 原点回帰 (homing; recurrence):上記に対して包括的に応答可能な想念。
[説明]
(1)愛の用語は上記のように多義的であり、曖昧であるので前後の文脈に注意を払う必要がある。さらに愛の用語は基本的に外来語であり、日本語に1対1に対応していない点も留意すべきである。
(2)「経済学は愛を節約した」と言う。この一文が何を意味するのか考えてみよう。愛は憎しみの反対語で自己犠牲にその特質を見出すことが出来る。自己犠牲とは与えるだけでその対価を求めないことであり、母性愛はその代表例である。自明の事実として、与えるだけでは経済は成立しない。ちなみに母性愛のリターンとしての介護や敬老も考えられるが、ここでの論旨を外れる。経済の本質はd20交換に基づく相互扶助にあり、これは上記<6>に通じる。したがって冒頭の一文は、拝金主義者や貨幣万能信者に対する諫めと受け取るべきであろう。
(3)財の獲得(分配とも言う)には通常@強奪、A贈与、B交換の形式が認められる。(詳細はコメント2 R2-2
参照) 「経済学は『愛』を節約した」と言う場合の愛はA贈与を指しているが、社会の平等化につれてB交換による形式が広く行われてくる。これが市場経済化にほかならない。
(4)計画経済、混合経済あるいは自由経済というd60経済体制の違いは財の獲得過程に占める@強奪、A贈与、B交換の割合の違いと理解できる。時代の進展とともに社会関係が
水平的になりB交換が常態化する。この交換が成立するには「主体性」の確立と「納得」するためのji3情報開示が必須条件となる。
(5)脳科学者である松本元は「愛とは何か」について次のように述べている。
脳は、遺伝的な生理欲求と関係欲求を基に、外部ji3情報のka6価値を判定するところから成長を始め、この価値判定に基づいて行動規範を決める。それと同時に、価値によって脳内活性を調節し、学習能を制御することで、価値情報処理回路を形成する。(中略) 「愛」とはこうした関係欲求における価値表現である。つまり、愛とは人との関わりを求め、人の存在をそのまま受け入れるための価値の尺度ということになる。
さて、上記 [説明 ] (2)では「経済学は愛を節約した」と述べた。一方、松本元は「愛とは関係欲求における価値の尺度」と言う。松本元による論点は、経済の進展と裏腹に殺伐たる様相を呈している日本社会の現状を読み解く鍵を与えている。なおスウェーデンボルグも愛と真理を巡って同じ内容を述べている。
[参考文献]
1.岩波科学ライブラリー42 『愛は脳を活性化する』 松本 元 岩波書店 2002年7月5日発行 p82
2 . 『生命』 イマヌエル・スエデンボルグ著 静思社 1982年9月1日発行 p14