gis30-1 GIS FRAMEの概要
GIS FRAMEとはGISをDBの文脈から捉えてDB/GISによる世界記述を狙いとする統一的な方法論の確立を目指す構想の仮称であります。その手始めとして図gis30
GIS FRAMEに示す6プロジェクトを事例研究の対象に挙げました。これらは将来的にはDigital
Earth 構想などへの統合が予見されますが、当面の課題はそれに至るプロセスの組み立て方にあります。海外における私のニックネームは「触媒」ですがGIS
FRAMEの場合も触媒たり得るかが問われています。
- 内海:諫早湾干拓事業との絡みで幾つかの有明海再生に向けた取り組みが進められています。第3回世界水フォーラム2003の成果やこれに舞台を提供した滋賀県琵琶湖環境科学研究センターさらには京大フィールド研などの知見が参考になると思われます。生態モデルの構築やその検証はあくまで結果であって、当面はむしろ関係者間を結ぶネットワークの組み立て方やDB構造の設計思想が問われます。ArcGIS体系はこれら異分野間の融合媒体として有効であり、かつ地球規模での普遍性を備えたツールを提供しています。内海とは半閉鎖性水域と周辺部流域の一体的管理を目指すコンセプトに与えた仮称であります。一方の外海に注ぐ河川流域系の場合は下記3に示す流域によります。
- 施設:土地改良事業による造成施設は農業水利ストックとも呼ばれ概算で24兆円に達します。土地改良施設のみならず厖大な国費を投入して建設された各種社会資本は維持管理面から抜き差しならぬ状況に追い込まれています。これは「管理問題」と呼ばれ早くから指摘されてきました。つまり陳腐化の進行速度が施設更新の速度を上回り、これは近未来における国土の荒廃を意味します。これに対応するにはProject/Life
Cycleの考え方を踏まえた施設管理/国土管理を巡る方法論の確立が求められます。社会基盤の脆弱化がその存立に深刻な事態を招くであろうことは自明であります。@土地の公有化A制度の国際化B国家の解体化などが歴史過程として展望可能ですが、いずれの場合にもDB/GIS技術の体系的導入は必須の要件となります。このような文脈のもとで前記のロードマップ構築作業は関係者にとって火急の課題であります。
- 流域:メコン川流域開発計画は地勢的に東アジア地域共同体のバックボーンを形成します。ここでGIS技術は国際河川の流域水管理を巡る共通言語を提供します。誰がこのグランドデザインを描き誰がどのように寄与できるか。その参画主体が今後主導的な役割りを果たすことは明らかであります。
ちなみに、レスター・C・サローは『知識資本主義』ダイヤモンド社のなかで模範的なCKO(Chief
Knowlege Officer:最高知識責任者)としてビル・ゲイツを挙げています。つまり企業の最高責任者は歴史的にCFO(Chief Financial
Officer)からCEO(Chief Executive Officer)へ移行し、これからはCKOが組織体の命運を左右する時代だとしています。ここで知識とは文明史文脈での状況把握能力を指します。つまり、これからの地球社会は「マクロ感覚を備えたトップの知識や経験次第」といえます。
前文の誤解を避けるためにアメリカ企業で採用されているトップ・マネージメント組織における序列について追加的な説明を加えます。組織統治の仕組みは経営体ごとに異なりますが次のオフィサー制を設置する傾向にあります。なお誰にどのような権限・義務・責任を持たせるかは組織体の定款によります。
CEO(chief executive officer) 最高経営責任者:従来の会長で意思決定者に相当する。
COO(chief operating officer) 最高業務執行責任者:従来の社長で意思決定を執行する。
CFO(chief financial officer) 最高財務責任者
CTO(chief technical officer) 最高技術責任者
CIO(chief information officer) 最高情報責任者:上記のCKOに相当する。
CBO(chief brand officer) 最高ブランド責任者
- 教育:GIS導入に際しての制約はデータと手法(モデル)にあります。GIS要員の教育・訓練・実務経験を措いてそれを克服する方法はありません。換言すればGISプロジェクトの成否はデータ生産体制をいかに構築するかにかかっています。このことは関係者の共通認識であります。国際的に認知される体系的なGIS指導者育成プログラムの作成方法が問われています。(例えば ITC、IHE、Deltares (Delft3D)、DHI、MDX などのような)
- 経済:地球規模でGISに準拠したデータ/モデルが整備されれば、電脳経済学構想は即座に現実化します。なぜなら代謝モデルはそのマクロモデルに相当するからであります。GISはミクロモデルとマクロモデルを連続的に取り扱うことができます。これは経済学でいう「集計問題/合成の誤謬」の解消を意味します。GISを巡る作業過程の全局面においてメタデータやスキーマの重要性を強調する理由はここにあります。通貨統合による国境の克服、国際会計基準の普及、ビジネスモデルの集積、環境問題の緊急性‥‥これらの相互作用によりこれは意外と早く実現しそうです。お断りしておきますが代謝モデルは社会の制度的な矛盾を摘出するための検証用モデルであり、これで経済問題が解決するわけではありません。問題の解決は意識の問題であって経済の問題ではありません。この文脈を辿ると問題は最初から存在しないという考え方も同時に成立します。(このパラドックスはシュレーディンガーの猫と呼ばれます。)
- 地球:異分野融合、文理融合、人体GIS、宇宙GIS…などの名称はさておいて、DB/GISの展開可能性については先端的な研究が例えばISDEなどですでに意欲的に推進されています。ハード面での制約はかなり解消されてきました。残された課題は人材の組織化ですが、GISはこの異分野融合の場面において遺憾なくその有効性を発揮します。この共通言語としてのDB/GISに期待が寄せられています。
gis30-2 GIS
FRAMEのこれから(一部修正:2007年03月23日)
GIS FRAMEを巡る個別ツールつまり基本ソフト群はすでに利用可能な状態にあります。しかし応用ソフト群の体系化つまり目的連鎖の構築は試験的な段階にあります。この国際標準化作業を進めるにはまず社会的/制度的な制約を克服する必要があります。この文脈から多国間協力/コモンバスケットを巡る体制整備が当面の課題となります。上記の参考事例はその入口を示唆するものです。