電脳経済学v6>f用語集> ka6 価値 (value)  (当初作成: 2000/09/23) (一部修正: 2005/01/05: 2007/10/04: 2010/10/20

〈1〉物事の役に立つ性質(効用)(有用性)(使用価値)。(⇔無用性)(→交換価値)
〈2〉将来における有用性との交換可能性程度(貨幣・交換価値)。
〈3〉よいとされる性質(善)。(⇔悪)
〈4〉誰もがよいと認める普遍的な性質(真善美+聖など)。
〈5〉感情や意志の要求を満たすもの。
〈6〉対象に対する自己の態度。(電脳経済学)
〈7〉客体との相互作用により生じる主体の感情。(電脳経済学)
〈8〉生命維持に好ましい事物の性質を巡る評価態度。(電脳経済学)

[説明]
(1)価値観とは各人の宗教、政治、文化、世界などに対する見方を指す。議論が収束しない場合に価値観の相違だという。これは置かれた立場や人生目的がそれぞれ異なることによる。価値に関しては価値一般を論述する価値哲学の視点並びに経済価値を分析する経済学の視点がある。一方、このような普遍的な価値と対置される属人的な価値もある。親の形見や記念品の類はその本人に固有な価値である。上記〈1〉〜〈2〉に経済価値の定義を上記〈3〉〜〈8〉に価値一般の定義を例示する。
(2)価値を巡る電脳経済学の立場は「梵我一如」の一語に集約できる。具体的には〈6〉-〈8〉に示すように主体の商品に対する評価態度となる。一方、現実の局面では価値の多様性をそのまま認めてこれに踏み込まない。主体性の確立と他者の尊重は同義であり、かつ表裏の関係にある。電脳経済学の特徴は上記〈8〉の定義に示す通り経済価値を生命並びに評価と関連させる点にある。財は生命に対する審級性に応じて同心円的に区分される。審級性とは重要性や緊急性を判断基準とする順序づけを意味する。価値の系列において限界効用価値説が並列的であるのに対して審級性は直列的でありかつより根源的である。経済学の効用概念には負財が考慮されていないので、上記〈1〉では「有用性」をとり「無用性」と対応させる。さらに交換価値に関して上記〈2〉による。これは将来における未確定性、信用の社会的連鎖性(いわゆるケインズによる美人投票の考え方)、経済主体の心理面などの蓋然性要因の重視による。これはケインズ貨幣論と大筋で符合する。価値分析の枠組みは下記(3)に述べる伝統的な経済学の通りである。
ここで特記すべきは、電脳経済学における労働概念は熱交換器の原理および経済要素の変換過程に示すようにマルクス経済学でいう労働価値説とは根本的に論拠が異なる点である。伝統的な経済学における労働価値説は古典派あるいはマルクス派を問わず熱力学成立以前の「熱素説」を彷彿させる。熱は元素や物質ではなく分子の運動状態から規定される。同様に価値の実体も商品に内在する抽象的人間労働の分量ではなく経済主体の意識作用から現れる。これが評価態度とする根拠でありかつ市場成立の真義である。
労働の目的が完結するとは、消費者が納得する商品の提供を意味し、これは近年消費者主権と呼ばれる。ちなみに生産者主権もあり得る。これは労働の評価を意味するが、前記の文脈から消費者主権に還元できる。消費者主権の正当性は、代謝モデルに示すように経済系自体の目的が文化への貢献にあることに照らして自明である。
(3)伝統的な経済学における価値を巡る論点は図ka6のように整理できる。なお図ka6は[参考文献]1.を一部修正して作成した。
@現象形態をとる商品の価格を出発点とする。
A本質実体としての価値を商品の属性とみる。(電脳経済学は主体意識と商品価値は相互関係をなす故に片一方では成立しないとする関係性の立場をとる。強いていえば物理要素としての情報が両者を結合している。)
B価値属性は見方によって次のように区分できる。
生産の視点あるいは客観的評価からは労働価値:
消費の視点あるいは主観的評価からは効用価値:
C労働価値はさらに次の説に区分できる。
投下労働価値説:リカード、マルクスにより支持。
支配労働価値説:マルサス、ケインズにより支持。
D一方、効用価値は次の説として展開される。
限界効用価値説:ジェヴォンズ、メンガー、ワルラス(限界トリオとも呼ばれる。)により導入。
Eちなみに、価格分析は価格現象から価値本質へと向かいこれは下向法と呼ばれる。同様に本質から現象への向きは価格理論となりこれは上向法である。下向法と上向法はラセン階段状の繰り返しをへて妥当な価格に収束する。前記の価格はそのまま経済と読み替え可能である。この理由から図ka6はタテ向き配置となっている。

(4)図ka6によれば価値を巡る結論は次のようになる。
●『価格』と《近代経済学》を結ぶ循環経路:
『価格』−価値−効用価値−限界効用価値説−限界トリオによるミクロ経済学−価格決定機構−《近代経済学》−ケインズ理論の基本構造−ケインズによるマクロ経済学−支配労働価値説−労働価値−価値−『価格』>は時計回りのループを形成している。これはケインズ理論の基本構造並びに代謝モデル第1象限に示した時計回りの貨幣循環経路に相当する。この経路は消費者主権に基づく価値実現過程として日常的に観察可能であり逆向きの物財循環経路(実物経済)と対応している。

『価格』マルクス経済学を結ぶ一方経路:
『価格』−価値−労働価値−投下労働価値説−マルクス理論の基本構造−《マルクス経済学》>はループを形成していない。つまりフィードバックが効いていない。左上の吹き出しに「生産の視点から価値を客観的に評価する。」とあり、いかにも科学的らしい印象を受けるが価値の定義に照らして論理性の欠落は自明である。換言すれば労働の目的が示されていない。
マルクス経済学の破綻はこの価値」の定義から発生しているだけに決定的である。

伝統的な経済学における価値の位置づけ マルクス理論の基本構造 ケインズ理論の基本構造 価格決定機構
図ka6 伝統的な経済学における価値の位置づけ(一部クリッカブル

[参考文献]
1.『経済学道案内[基礎篇]』 阿部照男 藤原書店 1994年4月25日発行 pp177-191