電脳経済学v3> f用語集> ji3 情報 (information) (一部追加:2004/07/10:2005/04/28) (全面改訂:2006/09/17) (一部追加:2009/06/16:2010/11/14)
1.「知らせ」としての情報
情報とは第一義的に事物自体が表現している自身の属性を指す。この「知らせ」としての客観的な情報は通常「データ」あるいは「事実」と呼ばれる。データが主体により評価されると情報になり、これは「情報=データ+知識」と表現できる。ここで知識が主体モデルを表すとすれば「情報=データ+モデル」となる。この知識/主体モデルでスクリーンをかけられた情報は次の段階でのデータあるいはモデルとなり順次集積され階層的に体系化される。この意味づけないし価値化の過程を「情報蓄積」と呼ぶ。このように情報は主観性と客観性を併せ備えていてそれぞれモデルとデータに対応する。つまり主体間におけるコミュニケーションは両者の識別作用を前提に成立する。人間の意識を離れて情報の概念は成立し得ない点は銘記されるべきである。したがって情報の伝達に際してWH疑問文(6W2H)は格別に意味深長である。
2.歴史問題への適用
このことは歴史問題にも適用できる。つまり事実としての歴史と解釈としての歴史がそれぞれデータとモデルに対応する。データはモデルによりバイアスがかかり逆にモデルもまたデータにより歪められる。これを裏返せば真理は無価値となり逆に価値を認めれば真理は見えなくなる。これは人間性の矛盾というよりむしろ人間性の本質に由来するもので妥協装置としての政治が要請される理由はここにある。因みにモデルは物語りとも呼ばれる。メタファー(隠喩、暗喩の類)や聖書、仏典もまた上記の文脈においてモデルとなる。
事実唯真に基づき思想矛盾が克服されると”あるがまま/なるがまま”が現実態となり「歴史過程もまた無記」となる。ちなみに原始仏教では”あるがまま/なるがまま”はそれぞれ”法/行”に対応している。同様に人生問題も十全の解釈なり評価を経れば無記となる。人生上の出来事は「気づき」において意味を持つ。つまり気づくまでは何かの意味があるのでより深刻かつ強烈な形で繰り返される。この関係を仏教では[業」という。業の切断とはこの気づきによる目覚めを指し人生の意味をここに見出す。
3.物理要素としての情報
電脳経済学では「物質・エネルギー・エントロピー・情報」をセットとして扱い「物理要素」と総称している。現実世界における各種現象は物理要素に対応させて認識できると同時に「物理要素の働き」の文脈において捉えることができる。前記の物質・エネルギー・エントロピーはすべからく情報によって表現されるほかなく、これらから情報を取り去れば認識作用自体が成立しない。次項の情報属性に示す通り情報は物質・エネルギー・エントロピーと比較してその性質が著しく異なる。つまり物質とエネルギーは保存されるのに対してエントロピーと情報は増大する。だだしここでエントロピーの増大は情報の喪失を意味する。
ちなみにマルチメデイアとは人間の五感に対応した情報の伝達経路を指す。情報処理の分野では文字、音声、動画、映像などの情報を電子化して統合的に扱う方法が該当する。さらには通信、放送、映画、新聞、出版、地図、医療、教育のような異業種にまたがる多様な情報をデジタル化したうえで通信網に乗せて双方向コミュニケーションを目指す体系を意味する場合もある。
4.哲学用語としての情報 (一部追加:2009/06/16)
アリストテレスによれば「形相」(form)と「質料」(matter)は対概念をなす。同様に情報(information:
[ORIGIN] give form to the mind)と物質も対概念をなす。両者はそれぞれ対応するので情報/物質は形相/質料の現代語となる。さらにいえばformは「諸行無常」にある「行」[ぎょう](梵語:samskara/業[ごう])(哲学:行為/実践)に対応する。「行」は熱力学第2法則/エントロピー増大則(entropy:
[ORIGIN] energyとtransformationのギリシア語tropyの合成語でクラウジウスにより命名)にいうtransformに相当する。transformは「変化」/「変形」/「変換」と訳されるがこれを一般化すれば「形成」となる。したがって「形成力」が宇宙を爆発させ膨張させる原動力であり「保存力」はそれに抵抗する作用といえる。ここで形成力は保存力に優越する。ちなみに保存力とは形成力の安定的な(平均滞在時間がより長い)形態で「重力」により代表される。蛇足ながら形成力と保存力の準静的拮抗作用はニーチェによる「力への意志」に相当し、これは上記のエントロピー増大則の別なる表現となる。この文脈はさらにイリヤ・プリゴジンの提唱になる散逸構造における「エントロピー生成極小原理」に通底し、これは複雑系諸現象の説明原理となる。「宗教-哲学-科学」つまり「神我系」の大筋はこのように描ける。
5.生命体における情報の内部化
情報は生命系の存在を前提に成立する概念で時の経過とともに一方的かつ累積的に増大する性質があり、これを「情報蓄積」と呼ぶ。「エントロピー増大則」に倣えばこの特性は「情報増大則」と呼べるものであり文化あるいは進化の本質はここに見出すことができる。電脳経済学の基本的な主張は経済の目的を「情報蓄積=文化」とする点にあり、この構図は代謝モデルに明示する通りである。
情報はこのように主体間のたゆみない発信と受信の相互関係ないし運動状態(流れ)として存在する。その結果として 生命体は情報の内部化を通して進化の道筋を辿ると同時に情報ビッグバーンへの回帰を指向する。自我を原点に据えれば分化による複雑化と縮減による単純化は固有時間を巡る対称関係にある。本サイトにわたるこの種主張は「梵我一如」思想の今日的な再解釈である。
6.情報属性の整理
次の諸点が情報属性として列挙できる。
情報属性:
A 客体として:
(1) 遍在する事物自体によって間断なく表現されている。
(1)-2
事物は意味を表現する能力がある。【⇒(15)-2】
(2) 物質やエネルギーに依存する。
(3) パターンの「差異」としてその存在が認識される。
(4) 基本単位はビット(bit:
binary digit)である。
(5) 複写しても減らない。(複写不変性)(非空間性)(自己言及性)【情報の複製と複製の情報を巡る循環的関係⇒オートポイエーシス(autopoiesis)】⇒(21)
(6)
コンパクト性や圧縮性がある。(超空間性)⇒【超ひも理論:10次元空間】⇒【心身凝然:明恵:華厳経】
⇒複雑性の縮減【モデル化;本来の意味を保持しつつ空間的容量を極小化】
B 流れとして:
(7) 発信者から伝達手段を媒体として受信者に流れる。⇒【意識の相互作用:noesis-noema関係】
(8)
獲得に費用・エネルギー・時間がかかる。
(9) 主観性と客観性を兼ね備えている。データとモデルの併存。
(10) 人間の感覚器官に対応して感知される。
(11)
人間の頭脳が最終的な到達点である。
C 主体による評価:
(12) 主体の需要に応じて無限に供給される。
(13) 価値を認める主体のところに集まる。
(14)
主体により評価されたデータである。
(15) 評価の結果として意味が与えられ価値づけられる。
(15)-2 主体は事物が表現する意味を理解できる。【⇒(1)-2】
D 主体における性格:
(16) 多いところに集まり等比級数的な累積性がある。
(17) 隠された連鎖の結合として発見される。⇒【霊感:霊性程度】
(18) 組み合わせにより創出される。
(19) その価値は希少性と有用性により定まる。
(20) エネルギーを節約して効率的な目的達成を可能にする。
(21) 価値増殖、意識拡大、生物進化、社会進歩の要因をなす。
(22) 生命体や組織体に存立根拠を与え行動指針を示唆する。
(23) 世界構造に対応して編成される。
(24) 存在と認識を結合し「梵我一如」へ誘う。
(25) 情報内部化を通して情報ビッグバーンへの回帰を志向する。⇒【A(6)】
7.参考資料
(1) 『現代熱力学』−熱機関から散逸構造へ− I.プリゴジン ・D.コンデプディ
著/妹尾学 ・岩元和敏 訳 朝倉書店
(2) 『岩波仏教辞典』第二版 CD-ROM版 中村 元ほか編 岩波書店