図b40 環境と生態系 |
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生命史の展開
生命については、これまで宗教や哲学の分野で取り扱われることはあっても、自然科学の分野では研究の対象とされませんでした。そのなかで最も近い位置を占めている基礎科学は生物学ですが、生物学は基本的に分類学を中心に発展してきた経緯があります。分類は学問の基礎をなすものですが、あくまで外形による区別が基本となっています。
一方、生命とは生物の本質に関する共通属性を指す概念ですから、むしろ生物の各個体に内蔵されていると見なければなりません。この文脈から生命現象に光が当てられるようになったのは比較的近年のことであります。その端緒となったのは1953年におけるワトソンとクリックによるDNA(デオキシリポ核酸)の発見であり、生命科学がその後目覚ましい発展を遂げていることは周知の通りであります。DNAとは平たく言えば生命体に共通してみられる設計図の情報構造を指します。リレー走者が次々とタッチしていくバトンのような存在ですが、このバトンのなかに埋め込まれた設計図から生命体そのものが組み立てられて行きます。
35億年にわたる連綿たる生命史はたんなる継承の繰り返しではなく生物進化並びに系統発生を巡る壮大な歴史物語りとして彩られています。その結果として、この地球上には現在1,392,485
種の生物(動物:1,035,614種、植物:248,428種、微生物その他:108,443種)が生存していて、その相互作用のもとで生態系を維持しています。なおこの数字はあくまで参考値であり正確なことは分かっていません。ちなみに哺乳類は4,000種であり動物の中では昆虫が圧倒的な多数を占めています。刮目すべきは生物系の支配原理が環境への適応能力にあり人間もまた生物の一種に過ぎない事実であります。生命倫理の本義はこの生命史の文脈に則して捉えられるべきです。
b40-2 生態系の要点
生物学の一分野である生態学の教えによれば、ある地域にすむ生物群集は生産者・消費者・分解者からなり、これらが形成する生物的環境内部における相互作用並びに無機的な外部環境との作用・反作用を通して調和と独立を保っています。図b40環境と生態系に示すこの関係は生態系と呼ばれます。生産者・消費者・分解者はそれぞれ植物・動物・微生物を指しますが、これらは生態系で最も大切な概念である生態的地位(ニッチともいう)を保ちながら相互依存的な生活を営んでいます。生態的地位とはそれぞれの生物が生物群集のなかで占める位置や役割を指す用語で、短くいえば「食う−食われる」の関係を中心とする生物系内の相互関係ないしそれから規定される生活様式を指します。生態的地位の相互関係は次に述べる食物連鎖過程としてマクロ的に提示されています。
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内部化の文脈から
図b45に示すように梵我一如あるいは人間原理は環境の内部化として定式化できます。人間の身体は陸地、海洋、大気をハード面で内部化しているし意識や進化も同様に環境情報のソフト面での内部化として説明できます。その事例として腸内細菌は食物連鎖過程の分解者に相当します。ここからぬか漬けは微生物のおかげですが導出できます。これが”風が吹けば桶屋が儲かる”論法かどうかは読者諸賢のご判断に委ねます。
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参考資料
1. 『創発する生命』化学的起源から構成的生物学へ ピエロ・ルイジ・ルイージ 白川智弘/郡司ペギオ-幸夫 訳 NTT出版
2. 『自己創出する生命』
普遍と個の物語 中村 桂子 ちくま学芸文庫
3. 『身体の宇宙性』 湯浅泰雄 岩波書店
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微生物のおかげです 岸本葉子ブログ