電脳経済学v3> c経済系1> c30 市場経済の仕組み
(一部修正:2005年0211日) (一部修正:2006年10月23日)


市場経済の仕組み(現行経済モデル)

図c30 市場経済の仕組み(現行経済モデル)


c30-1 市場経済の仕組みを確認する
図c30
に示す市場経済の仕組み(現行経済モデル)は、伝統的な経済学を巡る基本的な要件を網羅しています。まず経済主体として企業部門家計部門を設定します。両主体はそれぞれ対象系としての生産系消費系を司ります。そこでの両主体は経済合理性を行動規範とする経済人とみなします。つまり企業部門は利潤最大を目的とし、一方の家計部門は効用最大を目的とします。つぎに家計部門は土地・労働・資本からなる生産要素を生産要素市場を通して企業部門に供給し、企業部門はそれを用いて商品を生産して商品市場を通して家計部門に供給します。この供給は物財の流れとして図c30に灰色矢印で示すように反時計回りの循環経路を形成します。この供給が成立するには同時にそれに対応する需要の存在が前提になります。需要は貨幣の流れとして図c30において赤色矢印で表した時計回りの循環経路を形成します。両部門はその供給財あるいは需要財を通して両市場において出会いそれぞれの需要量と供給量が価格の均衡化過程を通して調整されます。この詳細はc32価格決定機構に述べる通りです。現行経済学はこの対照的な対応関係を巡る均衡条件の探索を狙うものです。
図c10経済学の流れに示すように近代経済学は大きくマクロ経済学とミクロ経済学に区分されます。全体的・循環的な枠組み分析を通して経済現象を捉える接近法をマクロ経済学といい、その内部関係はc36マクロ経済循環に、それに至る道筋はc35ケインズ理論の基本構造に示しています。一方、企業や家計における個別経済活動ないしその結果が集約される市場におけるc32価格決定機構からの接近法をミクロ経済学と呼びます。マクロとミクロの関係はトップダウンとボトムアップあるいは全体と個別の関係に相当します。両者の結果は理論上は一致すべきですが現実には一致しません。このマクロとミクロ間の整合性問題は合成の誤謬(fallacy of composition)あるいは集計問題(aggregation problem)と呼ばれます。

c30-2 閉鎖系2部門モデルの問題点
市場経済の仕組みつまり現行経済系の問題点を挙げればe10経済問題群あるいはe12問題群の事例のようになります。これらは閉鎖系2部門モデルに起因しますが、閉鎖系はエントロピーの法則により早晩行詰まります。これら問題点は下記のように集約できます。
(a) まずマクロ経済の対象範囲が不明確であります。国際経済が対象か、国家経済が対象か、地域経済でも成立するのか、はたまた仮想的な概念装置か。さらに経済統計に載らない経済現象は存在しないとしてよいのか。つまり時間・空間・主体の概念が欠落しています。
一方、電脳経済学は「地球系」を対象とするマクロ経済を指します。ミクロ経済の対象範囲(経済単位)は任意の「地域区分」に対応して定まり、しかも両者は連続的に統合可能であります。この構想は生産/分解系と消費系をそれぞれ土地と人口に還元したうえでエコロジカル・フットプリントとしてすでに実施/実証されています。
(b) つぎの問題点は生産要素市場にあります。消費主体としての家計部門の第一義的な目的は労働の供給にあり、土地や資本は家計部門の生産物ではありません。生産要素の意想は遥かケネーあるいはリカードにまで遡りますが、これに再考を加えることにより生産要素の経路から開放系3部門モデルとしてのd10代謝モデル導出できます。なお代謝モデルでは土地・労働・資本をそれぞれX・Y・T軸に対応させ独立に取り扱っています。
(c) 市場経済の仕組みは現行経済系と同義になります。ところが、この閉鎖系2部門モデルは「永久機関の論法」に陥っているが故に次に列挙するように現実を説明できません。

現行経済系が現実を説明できない理由:
A.物理要素の面から:
(1) 経済過程の動力源たるエネルギー代謝が示されていない。
(2) 商品は生産から消費へ一方的に流れて物質循環が完結していない。
(3) 廃物の発生や所在が不明でエントロピー処理の概念が欠落している。
(4) 経済過程は情報蓄積を目的とする情報処理系であるとする情報文脈に欠ける。
(5) 経済モデルに時間・空間・主体の関係が現れずシステム条件を満たしていない。
B.環境対応の面から:
(6) 環境問題の発生や生命系の危機を説明できない。
(7) 資源調達および廃物処理の面から物質循環が完結していない。
(8) 自然の規定が欠落していて経済系の位置づけが不明である。
(9) 地球生命系や自然生態系との関係性が認められない。
(10) 人間は経済という生活様式により生存を獲得しているとする視座に欠ける。
(11) 人類の存在意義や社会進化との関連性が示されていない。
C.循環過程の面から:
(12) ストックとフローの区分が不明確である。
(13) 生産要素としての土地や資本は家計部門の生産物ではない。
(14) 経済系の目的並びに外部関係が示されていない。
(15) 家事労働や文化に対する位置づけが不明確である。
(16) 人間意識との関係や人間救済へ向けての展望がない。
D.制度構築の面から:
(17) 経済系は本来無政府的であるとする基本認識に欠ける。
(18) 経済外部性をすべて政府に転嫁・依存している。
(19) 経済系における政府の役割が不明確である。
(20) 経済社会体制の在り方と結び付かない。
(21) 社会的不正や瑕疵が経済モデル自体から発生している。
(22) 企業会計や政府の財政支出との関連が示されていない。
(23) 社会資本や公共投資さらには租税制度を説明できない。
(24) マクロ経済とミクロ経済の境界領域が不明確である。
(25) 経済統計で捕捉されない経済現象は把握できない。

結論として上記の諸問題は閉鎖系2部門モデルとしての市場経済の仕組み(図c30)に由来するので開放系3部門モデルとしての代謝モデル(図d10)へとこれを展開すれば包括的に解消すると考えられます。

生産要素 家計(housohold)