電脳経済学v6> f用語集> wit ウィトゲンシュタイン(Wittgenstein)/ゲーデル(Godel) (当初作成:2011/07/31)(一部修正:2011/10/27)

1.梗 概:
(1)
ウィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein: 1889-1951)はオーストリア出身の哲学者である。論理実証主義、分析哲学などを巡る20世紀以降の哲学全般に大きな影響を与えた。
(2) 波乱に満ちた生涯は哲学に対する基本姿勢の転換に対応して前期と後期に大別される。
(3) 前期は主著『論理哲学論考』(1921年出版:『論考』と略称)に代表され、それは次の主要テーゼから構成される。
(出所:4.(5) p21:筆者の責任で一部修正)
  1.
世界とは、実際に成立している事柄の全てのことである。
  2.実際に成立している事柄、すなわち事実とは、諸事態の成立のことである。
  3.事実の論理上の像が、思考である。
  4.思考は、有意味な命題である。
  5.命題は、要素命題の真理関数である。(要素命題は、自分自身の真理関数である。)
  6.真理関数の一般形式は、「論理式」で表現できる。これは命題の一般形式である。
  7. 語りえないものについては、沈黙しなければならない。
(4) 後期は前期の批判を通して日常言語の分析に意義を見出し『哲学探究』(1953年遺稿出版:『探求』と略称)を著す。後期は前期の対義的な領域つまり私的言語、家族的類似、志向性などが思想の鍵概念をなす。最期直前には確実性の主題に取り組むも結論に至らず真の狙いは今なお定かではない。
(5) ゲーデル(Kurt Godel: 1906-1978)はオーストリア・ハンガリー二重帝国(現チェコ第2の都市ブルノ)生まれの数学者・論理学者である。
(6) 数学基礎論における20世紀最大の発見とされる「不完全性定理」によって知られる。
(7) その要諦は「自然数論の公理系が計算可能で無矛盾ならば、その無矛盾性の証明はその体系内で証明することができない」とする証明にある。つまり体系内では正当性は説明できても証明できないとなる。それでは体系外に拠ればとなるがそれもより確かかもとしかいえない。
(8) 余談ながらゲーデルの業績を最初に理解し認めたのはハンガリー生まれの数学者フォン・ノイマンである。その後二人は共に渡米したがノイマンはゲーデルを生涯にわたり高く評価し例外的に尊敬した。なお渡米後のゲーデルはアインシュタインと家族ぐるみの親交を重ねた。

2.論点説明:
(1) 論点説明とは1.梗概に関する著者なりの見解を指す。
(2)
結論は次の通り簡明である。上記の理由からその根拠は割愛する。
 @ 『論考』と「不完全性定理」は同義つまりトートロジーと考える。(e42近代史上の主要人物を参照) これは述語論理も構造は集合論だとする立場による。ここでトートロジーとは自然数論の言語の有限列がゲーデル数に還元可能かつ復元可能を意味する。ちなみにこのゲーデル数化はコンピュータのエンコード/デコード(符号化/復号化)に他ならない。次に述べる自己同一性やオートポイエーシスも思考実験的に文脈は同じになる。
 A 『論考』の結論”7.語りえないことについては、沈黙しなければならない”は倫理を指す。本サイトでは沈黙を無記と呼ぶがこの三者の文脈も共通する。
 B したがって『探求』は独我論的「自己同一性」へと収斂する。(但し自己同一性の概念エリクソンによる提唱よりむしろオートポイエーシス概念に近い。)
 C ここに「自己同一性」とはレヴィナスのいう「顔」の自己言及化に相当する。
 D さらにオートポイエーシスから生命論/遺伝情報への地平が広がる。
 E 上記は端的に「自己同一性の外部化が世界で、世界の内部化が自己同一性である」と総括できる。(詳細はspt時空参照) さらに随所で触れる万物斉同梵我一如も真義は通底する。

3.総合考察:
(1) ウィトゲンシュタインは自分自身に対して正直であろうと真剣かつ危機的な生涯を送った
(2) 彼は結局のところ自分自身が何をしようとしたか分からなかった。(自己言及パラドックス
/同一性拡散状態だった?
(3)
それは結果的に反普遍主義という意味で反形而上学の貫徹を通して出自の同定や忠誠の志向を模索した。
(補足説明:『論考』5・6「私の言語の限界が、私の世界の限界を意味する。」 彼の哲学はこの一文において総括され、これを端的に「私的言語」と呼ぶ。独我論(3.追記:)に示す通りこの私的言語はカスタマイズの手順を踏んで「自己同一性」に収斂して行く。)
(4) 最期には自分の運命を受け入れて自身の人生を全うした。これは宗教用語で放下(ほうげ)と呼ばれる。
(5) それは辞世の言葉「素晴らしい人生だったと伝えてくれ」に象徴的に顕れている。
(6) 現在の私は上記のようにウィトゲンシュタインとゲーデルを病跡学的視点から捉えている。

4.参考資料
(1) 『哲学事典』 林 達夫ほか監修 平凡社 p118+p418
(2) 『岩波哲学・思想事典』 廣松 渉ほか編 岩波書店 p117+p437
(3) 『ウィトゲンシュタインの知88』 野家 啓一 編 新書館

(4) 『ウィトゲンシュタイン』没後60年、ほんとうに哲学するために  永井 均ほか 河出書房新社
(5) シリーズ・哲学のエッセンス『ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか』  入不二 基義 NHK出版 C3310

(6)
岩波科学ライブラリー6 『ゲーデルの謎を解く』  林 晋 岩波書店
(7) 『数学基礎論』 −ゲーデルの不完全性定理−  隈部 正博 放送大学教育振興会
(8) ミックのページ ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン ウィトゲンシュタインに関する参考書籍 ウィトゲンシュタイン年表
(9)
村のホームページ ウィトゲンシュタイン