電脳経済学v3> e社会系> e34 経済要素
(当初作成:2004年04月05日)(一部修正:2004年07月21日)

e34-1 経済要素とは何か
経済要素とは物理要素並びに生産要素に対応する用語法であります。物理要素が「物質・エネルギー・エントロピー・情報」の総称であり、生産要素が「土地・労働・資本」の総称であるのと同様の意味において経済要素は「資源・労働・商品・廃物」を指す総称であります。代謝モデルにおいて「生産・消費・分解」からなる各系(変換系)はストック財に相当し資本を形成しています。一方、各系に対する投入・産出財としての経済要素はフロー財に相当し市場を形成しています。熱力学においてストックは状態関数としてフローは経路関数として定式化可能であり、かつ両者は相互に変換可能であります。なお経済要素と物理要素の関係はb52経済要素の変換過程、表b52-2に定性的に示しています。

e34-2 経済要素の出現順序
厳密に言えば前節で述べた経済要素は狭義の経済要素に相当します。一方、広義の経済要素は経済概念の出現順序に対応して図e32経済社会の進展過程として示しています。それを整理すれば表e34経済要素一覧表のようになります。

表e34 経済要素一覧表
時代区分
広義の
経済要素
生産要素
各系
(ストック)
狭義の
経済要素
(フロー)
説 明
1 古代:

自然状態
の時代
@自然
土地
分解系
本源的生産要素;土地は自然と同義とみる。
A生命
分解系
生命系は通常自然系に含まれる。
B人間
生命進化の文脈から捉えた人類
C消費
消費系
最初に出現した経済要素
2 中世:

農業中心
の時代
D労働
労働
労働
本源的生産要素;人間自体と同義とみる。
E生産
生産系
経済財の不足状態を克服する方法
F資本
資本
生産された生産要素;生産系と同義とみる。
G社会
近代的市民社会の成立
3 近代:

工業中心
の時代

H商品

商品
産業革命の進展
I資源
資源
帝国主義時代から工業化社会へ
J国家
所得やマクロ概念の登場
K貨幣
中央銀行制度のもとでの通貨
4 現代:
情報中心
の時代
L廃物
廃物
廃熱を含む。環境問題の深刻化
M分解
分解系
生産技術に対応する分解技術の体系化

e34-3 経済の本質が浮び上がる
人間は自然史のある時期に生命系の一部としてこの世界に現われました。しかし人間は自然に埋没することなく労働を通して自然に働きかけ生産という形でその有用性を取り出して生存を確保してきました。この意味で人間は労働なしに生存不能という特殊な生物種といえます。労働は人間を人間たらしめる故に人間は労働を通してその存在理由に気づくことが出来ます。電脳経済学ではこれを宇宙の自己認識と捉えています。ちなみに自然は宇宙と同義で、万物の自己展開過程/性質を指します。
マルクス経済学に根拠を与える史的唯物論(唯物史観ともいう)は、表e34経済要素一覧表の「E生産」以前に照準を合わせて目的連鎖を組み立てています。一方の近代経済学は「E生産」以降を対象として方法論の精緻化を目指してきました。両者ともに生産が経済学の中心課題をなす点は注目に値します。しかし結果的に両者ともに環境問題に代表される今日的な社会経済問題に対応できない状況にあります。
この文脈を踏まえて経済要素の出現順序を時系列的に整理すると図e36経済要素の展開に示す経済基本モデルを得ることが出来ます。同図において「経済要素−生産要素現行経済モデル代謝モデル」の展開過程が一目瞭然であります。

e34-4 経済要素の出現順序からの示唆
図e32経済社会の進展過程および表e34経済要素一覧表から次の示唆を汲み取ることが出来ます。
(1)経済要素のなかで労働は格別の意味を持ちます。なぜなら人間は労働を通して自然と対面し生産という成果を獲得する以外に生存の方法がないからです。
(2)ここで自然とは何かが問われます。経済学では土地資源を自然と捉えてきました。しかし電脳経済学では「分解系」が自然に相当する位置を占め資源は分解系の産出財としています。この文脈において分解系は地球生命系を指しています。
(3)しかしここで「 土地は産出財ではない」という大きな問題に遭遇します。このことに関しては電脳経済学では土地自体に再定義を与えています。つまり土地は空間や貨幣のようにそれ自体は実体がなく自然的ないし社会的関係から発生した人間意識の産物と考えます。
(4)生産要素の考え方により労働と土地の私的所有を認めればその成果としての資本も私的所有になります。そうなると公共性とか公的所有はどのように正当化されるのでしょうか。今日の社会経済を巡る閉塞状況はここに根本原因が由来するように思われます。
(5)これまでも時代の変わり目に人間は「自然に帰れ!」と叫んできました。ところが自然とは宇宙と同義で定義不能であります。自然‐資源‐土地を巡る関係性を経済理論の文脈から再考すべき時と考えます。