電脳経済学v3> f用語集> ae2 エネルギー代謝 (energy metabolism)  
(2004年03月12日作成) (2004年08月30日修正) (2005年07月06日一部追加)

分光放射エネルギー強度
地球系のエネルギー代謝
図 ae2-1 分光放射エネルギー強度
図 ae2-2 地球系のエネルギー代謝

ae2-1 代謝の意味について考える
最初に代謝の意味について考えてみます。代謝とは個体が必要物を摂取し不用物を排出して自身を保存する営みを指します。代謝のもっとも身近な事例として呼吸を挙げることができます。呼吸とは動物が空気中から酸素を取り入れて空気中へ二酸化炭素(炭酸ガスともいう)を吐き出す作用です。一方、地球もまた生命体ですから地球に関しても同様の考え方ができます。地球は宇宙に浮かぶ太陽から太陽光を受け取り、その終末形態である廃熱を宇宙空間に排出しています。この関係を図ae2-1並びに図ae2-2に示します。両図において黄色が太陽光をピンク色が廃熱を表しています。
電脳経済学におけるエネルギー代謝の用語法は、このように生命体のプラットフォームとして地球も宇宙との間でエネルギーを呼吸しているという意味で用いています。つまりエネルギーを摂取してとエントロピーを排出する入出力関係を強く意識しています。「代謝モデル」の用語法はまさしくこの文脈に由来するものです。なおエネルギー代謝の用語は生理学の分野で多用されますが物質代謝や新陳代謝でいう代謝は「交代」ないし「同化・異化」を指します。電脳経済学における代謝の用語法は「交代ではなく一方的な入力と一方的な出力の進行」である点を再度確認しておきます。

ae2-2 エネルギーの出入り
地球に対するエネルギーの入出力を物理学的にいえば、有効エネルギー(エネルギー)を吸収して無効エネルギー(エントロピー)を排出するとなります。前者を太陽放射、後者を地球放射と呼びます(図ae2-1/図ae2-2参照)。両者は量的には同じですが質的には後者が劣ります。両者が量的に同じことは「エネルギー保存則」から、後者が質的に劣ることは「エントロピー増大則」から導かれる重大な帰結であります。図ae2-1において黄色とピンク色の面積はエネルギー量を表し両方とも同じです。ところがエネルギー強度を表す高さにおいて黄色(a)とピンク色(b)の間では(H)の差があります。このエネルギー強度と波長の関係はプランクの放射法則によって定まり、波長の帯域が可視光帯域から熱赤外帯域にシフトしていることが図ae2-1から読み取れます。図ae2-2はこの関係を地球表面に対してイメージ図として表現したものです。エネルギー形態が光から熱に移行し両者は量的には同じでも質的に劣化しているのでエネルギー代謝の用語法が成立すると考えます。

ae2-3 大気の壁に守られ大気の窓から呼吸する
物理学的にいえば太陽は表面温度 6,000K の輻射黒体で、その放射電磁波の一部が地球に達しています。Kはケルビン温度で絶対温度ともいわれ K=℃+273.15です。太陽直射光は波長 0.5 μm あたりを頂点とする滑らかなスペクトル分布をなします。しかし、この太陽光は大気圏内に突入すると大気中の分子、雲、チリなどによって反射、吸収、散乱されて、地球表面に到達したときにはその分布はギザギザの形になっています。これを大気の分光透過特性といいます。
大気による吸収の少ない部分つまり透過率の高い波長帯を大気の「窓」といいます。地上で受ける太陽光はこの窓を通過した波長帯に限られています。裏を返せば通過しない波長帯は大気の「壁」によって地上と遮断されています。地球上の生命はこの壁によって守られ窓から呼吸していることになります。いま問題になっているオゾン層の破壊は有害な紫外帯域(図ae2-1下段左方参照)の透過率が高くなる現象を指します。さらに地球温暖化は二酸化炭素などが熱赤外線を吸収するために宇宙への廃熱の放出が阻害される現象です。
太陽を 6,000K の輻射黒体とすれば地球もまた 300K の輻射黒体であり、その輻射エネルギーは 10μm の近傍がピークになっています。ちなみに宇宙空間は 3K であります。地球が呼吸しているとは、地球が6,000Kの高温熱源である太陽から大気の窓を通して光としてエネルギーを受け取り、一方で 300Kの高温熱源である地球からは別の大気の窓を通して熱としてエントロピーを3Kの低温熱源である宇宙空間に捨てている現象を指します。地球生命体の活動はこのエネルギー代謝に依存しています。高温熱源である太陽だけでは代謝は成立しないし生命は存続し得ません。つまりエネルギーは流れの文脈から捉える必要があります。

ae2-4 地球熱機関の考え方
このことはエントロピーの用語法によればさらに簡潔に表現できます。つまり地球系は、太陽から低エントロピーの太陽光を受け取り宇宙空間に高エントロピーの廃熱として捨てている開放定常系の熱機関といえます。この考え方は地球熱機関と呼ばれ次第に社会的に承認されつつあります。換言すれば地球系のエネルギー代謝は両者の温度差から仕事を取り出す過程となります。この仕事は情報の処理や蓄積に用いられ進化として現実化されます。結論的に「地球は光を取り入れて熱を吐き出している」開放定常系の地球熱機関となります。しかも光も熱も同じ電磁波で、違いは図ae2-1に示すように波長と強度つまり波の形にあります。
蛇足になりますが現在話題になっているテラヘルツ電磁波光と電波の境目をなす未利用の電磁波帯域(300μmを中心とする10μm -3mm)の総称で、多くの物質を透過するためX線に代わる安全な透視画像計測技術などへの利用が期待されています。可視光に始まる利用可能な電磁波帯域の広がりは「視力の拡張」を超えて、GRIDによる宇宙DB構築などの形で社会進化の文脈形成に寄与しています。電脳経済学における思考経路はエネルギー代謝から情報蓄積への展開を経て梵我一如へ至ります。同時にさまざまな事象はこの経路との差分から位置づけが与えられます。
人間にとって理想や思想が重大な意味を持つのは現実との差分により適切な現実認識が可能となるからです。事前に、その理想や思想が正しいかどうかは誰にも分かりません。それ故にこの世界に人間が必要とされるわけで正しくないと気づけばそこで改めればよいことです。ここに差分とは部分修正で済むという意味です。(一部追加分)

[参考文献]
(1) 『図解リモートセンシング』 日本リモートセンシング研究会編 (社)日本測量協会  平成6年4月15日発行 pp2-25
(2) 『物理学辞典』初版 物理学辞典編集委員会 培風館 昭和59年9月30日発行