電脳経済学v3> f用語集> ps 光合成を巡るスキーマ (a schema concerning the photosynthesis) (当初作成:2008年03月22日)
図ps 光合成を巡るスキーマ |
1. 「光合成を巡るスキーマ」とは何か
図psに準拠して「
光合成を巡るスキーマ」について考察を加える。スキーマとは概念/知識枠組みを指すので標題は光合成を巡る周辺現象のマクロな整理方法の提示を狙いとする。図psの中心部を横断する「光合成」「呼吸」「生命活動」は代謝モデルに示す「分解」「生産」「消費」と暗黙裡に対応関係にある。本サイトでは前記三者を通り抜けるエネルギーの流れを「エネルギー代謝」と呼んでいる。特記すべきは「生命活動」から後の経路を「エントロピー処理」過程として取り扱う点にある。これは水道の場合に水道(エネルギー問題)とはこれまで上水道(エネルギー供給)のみを指したが本来は保存則に照らして上水道に加えて下水道(エントロピー処理)をも併せて水道と呼ぶべき関係に類似している。この主張は環境問題をエントロピー処理問題の文脈から捉える立場による。
2. 入力/出力関係から全体像を描き出す
図psに明らかなように「光合成」「呼吸」「生命活動」の位置づけはエネルギー/物質の入力/出力関係から定まる。「物理要素の働き」に述べるように「エネルギーは保存され」「物質は循環し」「エントロピーは処理され」「情報は蓄積される」。これらを踏まえると@太陽光に源を発する光エネルギーは宇宙系から地球系に入力され、その終末形態であるエントロピー(熱)はG廃熱として地球系からH宇宙空間に排出される。これを図ps上段に薄紫色の層で示す。
図ps中段は大気圏と地表面を巡る物質循環を表し空色の層で示す。独立栄養生物としての植物は下記の化学反応式(a)を右向きに進むA光合成を通じてBブドウ糖(C6H12O6)を合成する。
光合成: 6CO2+12H2O+光エネルギー⇔C6H12O6+6O2+6H2O
………(a)
呼吸:動物体内同化: C6H12O6→ATP
……………………………… (b)
生命活動: ATP⇔ADP+P+エネルギー ………………………………(c)
従属栄養生物としての微生物を含む動物は上式(b)のように植物から摂取したBブドウ糖(C6H12O6)をC呼吸を通してDATP
(アデノシン三燐酸:adenosine triphosphate)に変換する。ここでATPは「生体エネルギーの通貨」に例えられるように目的に応じて熱エネルギー、機械的エネルギー、電気エネルギー、光エネルギー、化学エネルギーなどの形をとってE生命活動を具現化する。つまり@ABCDE経路あるいは上式(a)(b)はエネルギー供給過程に相当し赤色太線で示す。なお、動物あるいは植物を問わず真核生物の細胞活動に必要なエネルギーは基本的にミトコンドリアからATPとして供給される。
一方、上式(c)を右向きに進みE生命活動としてエネルギーを解放したDATPはFADP+Pに変換された後に再びC呼吸に戻る。このとき式(a)を左向きに進み不要物を異化すると共に式(c)を左向きに進み再びDATPに変換される。なお式(a)の左向き経路では光エネルギーに代わりエントロピー(熱)が排出される。E生命活動以降のFCGH経路をエントロピー処理過程と呼び灰色太線で表す。ここで大気中に気化した水は熱(エントロピー)の担体(運び手:carrier)として水蒸気の形態をとり熱を宇宙空間に放出した後は降雨に転じ再び地上に戻る。この過程は水循環と呼ばれる。
3. 要 約
(1)エネルギー供給:
生物界のエネルギー源は@太陽光を出発点とする光エネルギーである。光エネルギーは植物によるA光合成作用を通してBブドウ糖などの有機化合物がもつ化学エネルギーに変換される。化学エネルギーはC呼吸作用によりDATPに変換される。DATPはすべての生物体に含まれエネルギーを蓄える働きがある。DATPはまた細胞のさまざまなE生命活動に共通して使用できるので「生体エネルギーの通貨」と呼ばれる。DATPは多量のエネルギーを放出してE生命活動を具現化するときにFADPとP(燐酸)に分解される。
(2)エントロピー処理:
E生命活動としてエネルギーを放出したDATPはFADP+Pに変換された後に再びC呼吸に戻る。動物体はC呼吸においては熱と共にCO2やH2Oなどの不要物を異化して大気中に排出する。それと同時にFADP+Pは再びDATPに変換され動物の体内を循環する。なお式(a)を左向きに進む異化の経路では光エネルギーはエントロピー(熱)に読み替える。このエントロピーはG廃熱とも呼ばれ最終局面においてH宇宙空間に放出される。この過程で水は生物体温度の内部恒常性を確保するために生物体から気化熱を奪う。水はエントロピーの担体としてエントロピー処理過程を通して必須の物質である。したがって図psにおいて上向きの水循環の経路と廃熱の経路は重なるが同図の煩雑化を避けて廃熱の経路のみを図示している。この詳細は図ha1-1に示す通りである。
(3)炭素循環:
大気中のCO2はA光合成によってB有機化合物に固定され食物連鎖によって上位の栄養段階に移動する。このB有機化合物は生物のC呼吸によって分解されCO2は再び大気中に戻される。なお広義の炭素循環についてはカーボン・フットプリントに述べる通りである。
(4)生態系:
無機的環境と生産者・消費者・分解者からなる生物群集の間は作用・反作用関係のもとで調和と独立を保ちながら一つの纏まりを形成している。生産者・消費者・分解者の三者は前者が後者に食物を供給する関係にありこれを食物連鎖過程という。三者はジャンケン関係のように相互に相対的位置関係をなし、絶対的な優越者が存在しない点が生態系の特質である。生態系は無機的環境並びに生物的環境によって位置づけられる。
(5)代謝:
生物は必要な物質を外界から取り入れ細胞組織内の化学反応により別の物質に変換してE生命活動を営んでいる。これを生活という。生物は生活に必要なエネルギーを代謝により獲得している。A光合成やC呼吸は代謝の例であり代謝モデルはこの文脈による命名である。なおエネルギー代謝はこの概念を敷衍した用語法である。
4. 結 論
(1)本サイトを通して代謝、交換、変換の各用語は必ずしも厳密に使い分けていないが相互に関連している。例えば図psの「呼吸」は図b50-1熱交換器の原理に対応している。これらは系と環境の定義問題に還元すれば解消できる。この意味でC呼吸やD生命活動は日常用語が拡張された生物用語である。用語法の詳細は5.参考文献などを参照されたい。
(2)本サイトにおいてエネルギー代謝はエネルギー供給とエントロピー処理を結合した概念として用いている。太陽光にもエントロピーが含まれるし廃熱にもエネルギーが含まれるが両者は有効性程度の問題あるいは絶対温度の取り扱いにかかる。
(3)本ページの目的はC呼吸を対称点に据えた「梵我一如」への接近にある。
5. 参考文献
(1) 理解しやすい生物IB・II(総合版) 水野 丈夫・湯島 誠 共編 文英堂
(2) Newton 光合成その仕組みとは? 2008年4月号 ニュートン プレス
(3) 岩波生物学辞典第4版 八杉龍一ほか 編集 岩波書店