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(最終更新日:2000/08/22 )(一部追加:2009/09/16; 2010/10/08; 2010/11/07)

C14:電脳経済学を興味深く拝見しました。熱力学を経済学に適用する考え方はルーマニア出身の経済学者の論文で読んだ記憶があります。電脳経済学はその流れと関係があるのでしょうか。ご返事を頂ければ有難いのですが。(原文は英文)。


R14-1:ルーマニア出身の経済学者
ご指摘の経済学者は、N.ジョージェスク-レーゲン(Nicholas Georgescu-Roegen:1906-1994)です。ルーマニアに生まれブカレスト大学で数学を学び、パリやロンドンに留学して数理統計学を専攻し、1934年にアメリカに渡りハーヴァード大学でシュンペーターから経済学を学び、後に生物経済学を構築して『エントロピー法則と経済過程』(1971)として著しました。1990年にローマに設立された生物経済学会の名誉会長を勤め、1994年11月4日に他界、享年88歳でした。『エントロピー法則と経済過程』(A5版、600頁)は高橋正立・神里公訳で1993年2月26日にみすず書房から出版されています。原文はTHE ENTROPY LAW AND THE ECONOMIC PROCESS By Nicholas Georgescu-Roegen: Harvard University Press,1971です。

R14-2:電脳経済学構想の形成過程・公表経緯
 (1)1986年11月04日:代謝モデル構想の原型作成 [日記帳Memorandum欄]
 (2)1987年01月06日:『流域水管理に向けて』=チャオピア水管理=調査団検討資料(1)[調査団内部資料として配布]
 (3)1989年11月02日:経済理論検討資料1『経済過程の基本構成』=代謝モデルに則して=[著名な経済学者にコメントを依頼]
 (4)1990年09月   :『エントロピー概念を組み込んだ経済過程について』エントロピー学会誌第19号に発表 [ここからアクセス可能]
 (5)1990年12月   :『これからの農業土木と新しい経済学』農業土木学会誌58巻12号に発表 [ここからアクセス可能]
 (6)1993年05月   :『開発と環境の両立可能性を求めて』国際開発学会誌第2巻第1号に発表 [ここからアクセス可能]
 (7)1993年06月15日:国際協力推進協会学術奨励金(論文の部)交付申請書の提出
 (8)1993年10月06日:−同上−審査結果の通知
 (9)1995年02月08日:『経済理論関係論文集』を確定書面として公証人役場へ登録
(10)1997年06月25日:ホームページ形式で『電脳経済学』としてリムネットサーバーに転送・公開(2009年08月31日まで)
(11)2000年03月28日:ミレニアムプロジェクト科学技術庁「革新的な技術開発」提案公募提出
(12)2000年07月08日:−同上−審査結果の通知
(13)2009年07月25日:ホームページ形式で『電脳経済学』としてOCNサーバーPageONParkに登録・公開し今日に至る。

R14-3:電脳経済学との関係
上記年表に照らして明らかなように代謝モデルに関する論文は、『エントロピー法則と経済過程』みすず書房の出版以前に発表されています。したがって、両者の間には何の関係もありません。上記著書は、内容的に科学論が中心で経済学に関する記述は限られています。(本書に関心のある方は書評を参照下さい。
電脳経済学の構想に近い外国の文献としては、むしろ次の論文を挙げることが出来ます。この論文には関連する文献や研究者も掲載されていて、この分野に関する国際的な研究の流れを掴むことが出来ます。コルビーモデルの基本枠組みは、電脳経済学における代謝モデルと共通していますが、開放系の2部門モデルにとどまり分解系が示されていません。つまり、エネルギー代謝に関しては共通認識に立つものの、肝心の物質循環が完結していません。なお、コルビーモデルについては『経済学のコスモロジー』永安幸正 新評論 p340 に紹介されています。
World Bank Discussion Papers80 "Environmental Management in Development"-The Evolution of Paradigms-Michael E. Colby 1990 The World Bank (ここから アクセス/入手可能
邦文では次の書籍が最も近い距離に位置しています。玉野井教授は1985年10月18日に逝去され、生前の交流もありませんでしたので両者の一致点があれば偶然によるものです。あるいは論理的思考の必然的帰結なのか読者のご判断に委ねます。
『生命系の経済に向けて』玉野井芳郎著作集2 槌田敦/岸本重陳編 1990 学陽書房
=筆者の知る範囲で電脳経済学と基本思想を同じくする構想は現在のところエコロジカル・フットプリント(EF)のみです。EFは現在進行中のプロジェクトで、原文に”熱力学の法則に整合性がとれている”と明記しています。(2009/09/16追加)=
=気づいた範囲でその後の展開をつけ加えればデイリーの『持続可能な発展の経済学』を挙げることができます。ちなみにデイリーはレーゲンの門弟でありGlobal Footprint NetworkのAdvisary Councilメンバーです。 (2010/10/16追加)=

R14-4:電脳経済学の今後
今のところ個人学際の立場から電脳経済学の体系化を進めていますが、同時に次のような可能性もあります。このホームページに要約版を追加すること。このホームページの用語集を完結させること。環境問題などに論点を絞って適当な学会誌に発表すること。もっと詳しい説明を追加して単行本として出版すること。国内の研究者との勉強会を開くこと。海外の研究者との交流を進めること。
電脳経済学の目的は、熱力学の用語法に準拠して経済過程の全局面を整合的に説明することにあります。この発想は独創性において「過ぎたるは及ばざるがごとし」の感も否めません。電脳経済学を組み立てるに際して、経済学関係文献の参照は意図的に避けてきました。その結果として、電脳経済学に対しては独断的だ、論理が飛躍している、現実性がない、経済学の基礎を理解していないなどの批判が寄せられています。これはまた、それら文献を引用していない証明でもあります。
電脳経済学の狙いは、自然科学の知見を援用して経済を巡る基本概念や根本問題を問い直すための枠組みを与えること、つまり経済学の初心に返ることにあります。したがって、伝統的な経済学の体系との相互参照による検証作業は今後の課題となります。

R14-5:電脳経済学のその後とこれからの取扱い (本項追加:2009/09/16) (一部追加:2010/11/07)
前項で触れたその後は「用語集」への一部追加のみです。サイト開設以来丸12年目を節目に本サイトの新規ページは中止しました。但し既存ページの改良作業は今後とも続けます。電脳経済学の結論は金融危機に示す通りです。これからの経済学は社会会計学として国際基準化され、その流れと連動しながら環境問題や格差問題も早晩解消に向うと考えます。その根拠は汎地球的な「情報技術の進展」にあります。これは端的に「情報開示」として集約されます。何事もみんなで考えるより外に方法はありません。
この論点整理は現代哲学と絡めて用語集の中で進めています。目指す結論は《@人間原理+A宇宙原理B梵我一如(=C》であり、これに対応する内実は《@独我論 A宇宙 B蝶夢 C無記》となります。その経緯は更新履歴に示す通りです。なお直近の関心は「世界内戦を巡る国際秩序構想」にあります。この論題は『正戦と内戦』大竹 弘二 以文社からの示唆によります。しかし内容的には独自の主張で上記の「情報技術の進展」が鍵概念となります。それは情報が権力、暴力、国家、経済などを包摂するとする展望を指します。因みに展望と蝶夢は同義になります。