電脳経済学v6> c経済系1> c50
生命経済系の考え方
(一部修正: 2002/05/20)(全面推敲: 2008/05/13)(一部修正:
2008/06/17: 2009/06/01: 2010/01/21: 2010/02/04: 2010/02/05: 2010/10/21)
図c50-1 生命経済学の構図 |
図c50-2 梵我一如の構図 |
図c50-3 調停によるカント認識論 |
1. 広義の経済学とは何か:
「生命系の経済」は広義の経済学とも呼ばれます。この前提としてc10伝統的な経済学は狭義の経済学と対応します。広義とは対象範囲を広げて系を捉え直す意味であり、この文脈は経済領域の拡張を主張する電脳経済学と基本的立場が一致します。広義の経済学はこれまで古くはエンゲルス、ヴェーバー、シュンペーター、近年はジョージェスク-レーゲン、ボールデイング、コルビー、デイリー、玉野井芳郎などの経済学者によって提唱されています。見方によってはマルクスも当時の経済学を唯物弁証法的に広義化しています。
しかし、いずれの場合も狭義の経済学の批判を通して広義の経済学に至るもので、批判の対象となる狭義の経済学の捉え方次第でその内容は大きく異なりai3イデオロギーに依存しています。つまりイデオロギーに依存するとは特定の思想やka6価値観の実現がその経済学の目的となります。一方、電脳経済学はb10熱力学の法則とb40生態系の考え方に準拠してnt自然系/lif生命系の部分系として演繹的に導出した経済モデル故にイデオロギーフリーであります。これはあたかも新生児のように当面の役には立ちませんが将来は期待できると確信しています。この背景は下記4.並びにte哲学/e20経済思想との関連に示す通りです。
2. 生命論とエントロピーの絡み:
生命系の考え方に端緒を開いたのは波動方程式で知られるシュレーディンガー (Erwin Rudlof Josef Alexander Schrodinger:1887-1961) であります。シュレーディンガーは量子力学の形成に大きく貢献した物理学者で1944年に『生命とは何か』
(下記: 6.参考文献 1.)を著わし物理学者の立場から生命現象を論じました。そこで彼は遺伝子の構造についての推論を展開しましたが、これが1953年におけるワトソン(James
Dewey Watson: 1928- )とクリック(Francis
Harry Compton Crick: 1916-2004)の二重らせん分子模型つまりDNAの発見に結びついたとされます。ちなみにクリックはイギリスの物理学者、ワトソンはアメリカの生物学者です。
シュレーディンガーはその生命論をエントロピーとの絡みで展開しました。シュレーディンガーは生物体が熱力学的平衡状態つまり死へ向かうのを遅らせているのは「負のエントロピー」を食べているからだとしました。この一文は後に物議をかもすのですが、シュレーディンガーは秩序を摂取して無秩序を排出すると比喩したもので生命現象の本質をae2代謝作用に求めた点において正鵠を得ていました。彼は代謝に加えて交換の概念についても踏み込んだ考察を加えています。さらに注目すべきは彼が前著のエピローグにおいて”森羅万象の最も深い洞察の真髄”としてe24「梵我一如」思想を挙げ自身の生命論との整合性について論及している点です。ちなみに、これはドイツの哲学者ショーペンハウアー(Arthur
Schopenhauer: 1788-1860)の影響によるものです。
ここで前節にある「負のエントロピー」に関してシュレーディンガーの真意を巡り補足説明を加えます。負のエントロピーはネゲントロピーとも呼ばれ、 これはNegative
Entropy の略称です。開放定常系は陰関数で表現すれば右辺は零となります。一方、左辺も零となるには生命系内部において発生するエントロピーを相殺するために生命系と外部環境を出入りするエントロピーの合計値は不可避的に負となります。これを負のエントロピーと呼ぶことと計算過程でエントロピーが負の値を取らないこととは別の話です。何事も本義は真意の理解にあり枝葉末節にわたる詮索は有害無益です。
3. 生命系と経済系の架橋:
生命系と経済系の架橋に関しては地球の有限性を指摘した警世の書として知られるローマ・クラブ第1回報告書『成長の限界』(1972)(下記: 6.参考文献 2.)を挙げることができます。これは直接的には資源問題を取り扱ったものですが、生命経済系を巡る一連の流れに契機を与えた意義は大きいといえます。この問題意識は経済学の周辺部から正統派ないし体制派に対する批判として環境運動などの形をとりながら今日まで間断なく提起され続けています。しかしその多彩かつ広範な動きにもかかわらず肝心の生命経済系に関しては定式化はもとより定着した概念規定も今だに示されていません。それは問題意識を持った研究者が理論解明より社会運動や広報活動を重視しているからです。理論なき運動/活動は往々にして情念に流され本来性を見失う懼れがあります。
4.生命経済系が備えるべき要件:
生命経済系が備えるべき要件について予備的に整理すれば次のようになります。
6.参考文献:
1.
『生命とは何か』 ―物理的にみた生細胞― シュレーディンガー 岡 小天ほか訳 岩波文庫 青946-1
2. 『成長の限界』 ドネラ・H・メドウズほか 枝廣
淳子訳 ダイヤモンド社
3. 『確実性の終焉』 イリヤ・プリゴジン 安孫子
誠也/谷口 佳津宏訳 みすず書房
4. 『自己創出する生命』−普遍と個の物語 中村
桂子 ちくま学芸文庫
5. 『創発する生命』化学的起源から構成的生物学へ ピエロ・ルイジ・ルイージ 白川
智弘/郡司ペギオ-幸夫 訳 NTT出版