電脳経済学v3> aご案内> a70コメント集> ct17 コメント17
(当初掲載日:2001年11月09日 )(一部補足日:2001年11月12日 )( リンク補修:2002年09月24日 )(一部訂正日:2004年12月07日 ) 

C17-1: はじめまして、経済に最近興味を持ち始めた大学院学生です。貴殿HPを拝見し、経済にまったく縁がない、また、熱力学には疎い (でも理系の専攻で基礎的な多少の準備知識はあると感じていますが・・・) 小生にも貴殿の意図、論理的かつ包括的な説明のおかげでHPを楽しく読ませていただいています 。 (小生の周りに貴殿ような博識な方はいないのですが、理系の専門から知識、活動の範囲を広げられたきっかけには興味があります。) 

C17-2: 本来であれば、HPをすべて読み、準備してからメールさせていただくべきだと思いますが、以下の点について教えていただきたく、メールを送らせていただきました。お忙しいとは思いますが、ご教授いただけると幸いです。 

C17-3: 表b52-2経済要素と物理要素の関係 (図b52 経済要素の変換過程に名称変更)について 
物理現象、経済活動との間にアナロジーが成り立ち、熱力学の法則が成り立つということですが、限界はないのでしょうか (・・・小生は限界があると思うので、問題点や今後の課題を教えてください)。特にエントロピーの法則に関してコメントしていただけると有難いです。(物やエネルギーの流れについて、法則が成り立つというのは理解できます 。少し引っかかるところはありますがC17-8で伺います)。

C17-4: 経済系へのエントロピーの概念の導入は Georgescu-Reorgan (以降、GR) によってなされたとのことですが (それ以前に試みた人もいたとどこかで読んだ気もするのですが・・・)、 そのときのエントロピーの定義を教えてくださ い(Disorderの度合いか、質のことか?、やはりその両方当てはまる?)。そして、このとき貨幣や商品、サービスの質や量、というのは物理でいうどのような量に相当すると GR (また貴殿) は考えたのでしょうか?(もしエントロピーが質、あるいは貨幣価値であれば、太陽光や自然資源をどう評価できるのしょうか?)

C17-5: また、この法則には”時間”の概念がない (もちろん現象の推移の”方向性”について意義深いですが) と理解しています。しかし、経済では、(無知ながら) 時間の概念は無視できないかと思います。(物への評価は人によってもかわるし、時間によってもかわる) 

C17-6: これらの質問の意図は、熱力学と経済に関するアナロジーが本当に成り立つかどうか、幾分懐疑的にならざるを得ない感があり、そこをクリアーにしたいからです。”エネルギー”の質、あるいはエントロピーは一義的に、客観的に決まります。でも、経済 (人間の活動) について、そううまくいくものなのでしょうか?
GRのメッセージ(他人が要約した文面しか読んだことがないのですが)は、昨今の環境 Oriented な雰囲気を促進するよいものだと思います。ただ、上で述べたような類似則の限界などの見地などから、GR についての批判等はないでしょうか。

C17-7: また、追加ですが、エントロピーの導入よりはエクセルギーの考え方のほうが限られた資源を如何に効率的に使うか、というニュアンスが強く(いくらかエコロジカル経済的)、また観念的にわかりやすいと思うのですが、貴殿はいかが思われるでしょうか。  

C17-8: システムについて
地球とそれを取り囲むアウタースペイスとのエネルギーの流れは、ずばりエントロピー則ですよね? つまり、地球とその回りの宇宙というシステム(A) を考えたとき、太陽からのエネルギーを地球は得て、廃熱を宇宙へ排出する、その過程を通じて地球 (生態系) という、システム (A) の subset としてのシステム (B) のエンタルピーは維持される、そして、このとき、(A) のエントローピーは増大している。(正確には B のエントロピーは減少している?、あるいはエントロピーの増加の度合いが抑えられている?というべきなのでしょうか?)。 

C17-9: また、貴殿は(い)環境、(ろ)エコロジー (生態系)、(は)地球 (村) という言葉を使われていますが、これらは、地球表面の Biosphere (うえの (い)と(ろ))のことを指しているのでしょうか。また、(い) と (ろ) の意味は異なりますか? また、確認ですが、貴殿は経済は環境の部分集合で経済成長に限界があると考えられているのでしょうか。 

C17-10: とりとめない文面 (かつ、質問だらけの内容) になったかもしれませんが、質問に答えてくださると大変有難く存じます。 それでは、貴殿HPの更なる拡張、活動を期待しております。


R17-1; R17-2:  基本的な立脚点について:
貴コメントは私が永年考えてきたことと余りにも重なり合うので、何が動機なのか何を目指しているのかなど逆に私の方から質問したい位です。まず、理系から経済系への接近理由についてはコメント12並びにコメント14でも取り上げていますのでご参照願います。理科的な感覚なしに経済系を考えたり論じたりすることは出来ない。 経済学は本来経済科学であるべきだ。これが経済現象に対する私の基本的な認識であります。
随所で述べていますが、電脳経済学は「人間も自然の一部である。」との立場に基づいています。本来、縫い目のない不可分の自然を文系とか理系とかに区分して扱うのは役割分担上の方便と理解すべきです。この自然から経済にいたる道筋については図e32経済社会の進展過程あるいは図shi3-2生産要素の出現過程に示す展開を前提として考えています。

R17-3:  表b52-2経済要素と物理要素の関係(図b52 経済要素の変換過程に名称変更)について:
ご指摘の「物理現象と経済活動との間にアナロジーが成り立ち」という表現は、表題(表b52-2)の主張と微妙に異なりますので、この論点をまず整理しておきます。表題の主張は、経済要素は物理要素に還元して説明するほうが理解しやすいというものです。 例えが適切かどうか自信はありませんが、経済現象:経済要素:物理要素の関係を分子生物学:分子:原子の関係に置き換えてみます。分子が原子によって説明された後に分子生物学の記述に進むことが出来るように、経済要素が物理要素によって説明された後に経済現象の記述に進むことが出来る。当然なこと ですが、ここでの物理要素による経済要素の説明は定性的・比喩的なものです。
つまり、ここでは経済学に対する熱力学法則の適用限界より、はるか以前の段階を取り上げている、とご理解願います。差し当たりは、物理要素の働きについての社会的合意を得ることが先です。この点は2000年6月に施行された『循環型社会形成基本法』などに、その兆しが見られます。電脳経済学で「物質循環」と呼んでいる概念が「リサイクル」に相当します。したがって、環境問題が「エントロピー処理」 過程をめぐる問題と捉えられるまでかなりの道のりがありそうです。

《【分子生物学】生命現象を分子的側面から解明する生物学。特に遺伝子の働きに関係する核酸や蛋白質の構造・生成・変化などを、分子のレベルで解明する研究が中心。今日の生物学の基礎となっている。(広辞苑より)》

R17-4:  Georgescu-Reorgen  と電脳経済学の立場:
ご指摘の Nicholas Georgescu-Reorgen (以降 GR) (1906-1994) に関してはコメント14でも取り上げています。GR は日本に紹介された直後は注目されましたが、近年は影が薄いようです。いずれにしても、GR の主張については直接彼の著作を参照願います。ちなみに、私は日本に紹介された当初から「くど過ぎて論旨不明確」との印象を受け、独自の道を歩んでいます。
「経済系へのエントロピー概念の導入」に先立って「生命系とエントロピーの関係性」を押さえておく必要があると思います。このことについてはc50生命系の経済(c50生命経済系の考え方に名称変更)に述べているように波動方程式で知られるシュレデインガーがその生命論をエントロピーとの絡みで展開し、それが今日の分子生物学に礎石を与えたとされています。
R17-3 でも述べているように私は経済概念と物理概念の間の定性的関係について記述している段階です。しかし展望としては環境財の定式化の過程で、太陽エネルギーや水資源に代表される天然資源並びに自然環境の定量化・モデル化は経済分野の課題として避けて通れないと考えています。これへ向けての具体的な考え方は『開発と環境の両立可能性を求めて』(pp86-88) 4 地域開発計画への適用に示すとおりです。この課題に対しては ArcGIS9/3DAnalyst/ArcGlobe に基づくインデックスモデルのテスト中で、その上位スキーマ構想についても模索中であります。

R17-4b: R17-4 の補足分(一部 補足日:2001年11月12日 ) 
C17-4 後半部分は核心を衝くコメントと思われますので補足を加えます。まず「貨幣」の本質はka7貨幣<7> にあるように「商品情報の担体」と捉えます。担体とは carrier で運び手を意味します。同様に「水」は「エントロピーの担体」であります。経済行為の最終目的は「自己の解放」にあります。自己の解放は「意識の拡大」によって達成されます。さらに、意識の拡大は「情報の獲得」に依存します。貨幣の存在理由は、このよう に人間的な連鎖関係のなかでの、情報媒体としての役回りに見出せると考えられます。ちなみに情報は(エントロピーと同じ関係式で表現される)完全な物理量です。
この連鎖関係のなかで物理要素としての「物質」「エネルギー」「情報」および「エントロピー」の意味を掘り下げて理解しておかないとそこがボトルネックになって連鎖が途絶えてしまいます。価値とは商品とは労働とは資本とはと果てしない連鎖を現象領域と呼べば、それらを深層の本質領域で括りだせる概念が「物理要素の働き」であります。物理や経済を巡る数量化や数学モデル の構想は、このような前提条件を吟味する過程で自然かつ必然的に現れてきます。つまり、散漫な条件設定のもとでのモデル化や経済予測は無意味であり不必要な混乱を 招くだけです。
太陽光や自然資源との関係はつぎのとおりです。これらは「社会資本」の捉え方と関連しますので図shi3-3経済構造と社会資本を参照願います。 社会資本は自然現象と社会活動を媒介するもので身近な例として「天気予報」を挙げることができます。先物市場と長期予報の関係について多言を要しません。図shi3-3において「可塑性程度」が鍵概念になります。
財の移動に要する経費(つまりエネルギー)が上の階層に行くにしたがって安く(少なく)なります。マレアブルな財の移動が、CALS, 電子商取引(EC)、 電子マネーなど電子媒体の形で、今日何の抵抗もなく受け入れられています。一方、土地に代表される地縁的な物財は移動が困難です。図shi3-3 (2) は横の交流が縦の循環と調和すべきとする「地域自立」の考え方を表現しています。図shi3-3 (1) は、上記『開発と環境の両立可能性を求めて』(pp86-88) 4 地域開発計画への適用に示すモデルに社会資本の視点を付加しています。なお、このモデルは『生命系の経済学』 ポール・エキンズ編著 御茶の水書房 p41 ヘンダーソンによる図を抽象化したものです。

R17-5:  エントロピー法則と時間概念の関連:
まず「時間」一般について私の見解を申し述べます。経済の分野では「貨幣の謎」という用語がしばしば現れます。同様に哲学の分野でも「時間の謎」が語られます。時間には「ニュートン時間」と「ベルグソン時間」があるとされます。電波時計で計測した時間と恋人 と過ごしている時間との対比といえます。私は両者の間に「アインシュタイン時間」(ローレンツ変換)を置くべきだと考えています。同時に、時間・空間・主体の三者はともに「錯覚」現象だという見方もあります。これらを踏まえると、時間とか空間は客観的に存在するものではなく主体の認識作用から現れるもの、との結論が導けそうです。この主題についても本 HP のあちこち(図ct03-2ミンコフスキー時空e22目的論と方法論e24梵我一如に向けて)で述べていますので参考になさってください。
さて、貴コメントにあるようにエントロピー法則に方向性を認める立場は次のように表現できると考えます。図e22-1、図e22-2目的論として示す赤色矢印が時間軸や価値軸に相当します。エントロピー法則の式に時間の項がないというのがコメントの趣旨かも知れませんが、微分可能であれば単位時間を設定するなり任意の媒介変数を挿入して処理できると考えます。時間 t を説明変数、エントロピー S を目的関数として方程式形式で表現する必要はないと考えます。

R17-6:  熱力学と経済に関するアナロジーが本当に成り立つか:
この論点に関してはすでに R17-3; R17-4; R17-5 で取り上げましたので詳細は割愛します。電脳経済学の要諦は、「変換」「交換」に尽きます。とりわけ、図b50-1および図b50-2 が基本前提をなしています。当然のことながら、私はこれらは正しいと信じています。しかし、私自身はこれを証明することが出来ません。それ故に仮説としてこのHPを通して世に問うている次第です。
貴殿は春秋に富む若者と推察されますが、この際いささか苦い言葉を並べてみましょう。先ず貴殿は「真理」をどう捉えていますか?学校で習ったことは数学でも物理学でも真理にいたる「素材」に過ぎません。客観的真理とされているものは、すべて仮説体系です。そのことは「ゲーデルの定理」ですでに証明されています。
それでは真理は存在しないのでしょうか。釈迦が「三法印」としてそれを示唆しています。法とは真理と同義です。私なりの結論は「納得」です。貴殿は私の言辞を納得して受け入れますか。多分、 疑念が残るでしょう。それでいいのです。自分自身で調べて吟味して納得しないことには真理の世界に到達出来ないのです。

R17-7:  エクセルギーの考え方:
基本的にまったく同感です。エクセルギーはすぐれて工学的な概念で、平たくいえば有効エネルギーあるいは利用可能なエネルギーを指し、私たちの目的に沿うより正確な表現だと私は理解しています。しかし、現実問題としてエネルギーやエントロピーの概念さえ定着していない現在の経済社会状況のなかで、あえてエクセルギー概念を持ち込む必要があるでしょうか。この意味から 、次の段階で導入するとしても当面は専門用語として用いればよいと考えます。
なお、エクセルギー概念に関しては『エクセルギーのすすめ』=熱力学の革命がはじまっている=押田勇雄 講談社BLUE BACKS B727 に平明な解説がされています。

R17-8:  地球系と宇宙系の関係について:
系と環境に関しては図b14-4投入産出関係のように考えています。これを地球系と宇宙環境に当てはめた場合、表b34思考の基本枠組みカテゴリーGに示すとおりです。この間のエネルギーの流れは 図b10太陽エネルギーの流れに図示しています。図b32物理要素の働き図d12-1経済系のイメージはこれをさらに詳しく提示しています。
地球系におけるエントロピーの増減に関しては図ha1-1エントロピー処理過程における水循環の役割と地球環境問題の関連性として示しています。地球表面における物質循環並びに地球表面と宇宙空間の間における水循環を「エントロピー処理過程」と呼びますが、これに滞りが発生した状態が環境問題にほかなりません。

R17-9:  環境と生態系の関係について:
このことについては、図b40環境と生態系に示すとおりです。生産者・消費者・分解者に関して図b42食物連鎖過程において経済系の概念と対応させています。環境の用語はかなり曖昧に用いられていますので注意を要します。一般的に、「主体 」あるいは「系」が暗黙の前提にあって「環境」の用語が意味を持ちます。主体とは生命系を指しますが通常の場合は人間を指しています。生態系において、人間は消費者の一部であり、消費者たる人間の生存様式として「経済系」が要請されます。人間は 宿命的に「労働」なしに生存できない、この労働実践の場として経済社会が成立している、ともいえます。
この点に関してはコメント1で詳しく論及しています。e32経済社会の進展過程でもこのことに触れています。図b40環境と生態系でいう生物的環境とはe32経済社会の進展過程でいうA生命に相当します。人間は生態系の要素である消費者の一部です。このような基本姿勢はc50生命系の経済(c50生命経済系の考え方に名称変更)で提示しています。 なお『物理学に基づく環境の基礎理論』 勝木渥著 海鳴社は、本 HP と論拠を同じくする数少ない文献の一つであり、お薦めいたします。
経済は環境の部分集合との視点は同感です。その趣旨は「ごあいさつ」 (para5; para6) に「エントロピー処理過程」の用語で述べています。さらに、経済成長については限界はないと考えます。しかし、その前に分配や平等の問題が克服されないと経済社会の安定が確保できないと思われます。

R17-10:  結語として:
厳しい内容との印象を受けられたかも知れませんが、他意はありませんので折に触れ気軽に読み流して自分の頭でつないでみてください。自分の運命に思いを巡らし、専門 知識と一般常識を適宜組み合わせながら、時間をかけて進めばそれが何であれ道はかならず開けてくると思います。